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「むしろあなたのほうがテンパっている」
「ほんとそれ」
洗面所で手を洗っていると、足音もなく男がやって来た。鏡をのぞき込んで髪型を気にしている。洗面台の鏡に映るのは私の姿だけだった。となりに立つ男は映り込まない。
「ということは、近いのですね」
濡れた手をタオルで拭う。
「私の死期が」
そう言うと、男は目をまん丸にした。鳩が豆鉄砲を食らったような、という表現があるが、本当にその通りの顔をしていた。
「なんでそれを?」
「すみません、危うく仕事を取ってしまうところでした。死期に関してはあなた方、死神の仕事だというのに」
メモ帳が手放せない新米の死神は、人間と見間違うほどにころころと表情を変える。驚きと不安が入り混じった顔で、居間の入口で立ち尽くしている。
「えっと……たしかに、あんたは二十四時間以内に死ぬことになってる。俺はそれを見届けて、回収した魂をあの世に提出しなくちゃいけない」
「本当に、いつも突然やって来ますね」
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