まぎわに、さずける

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キッチンに立ち、電気ケトルに水を注ぐ。ケトルのなかでいくつもの水泡が生まれては消えていく。私には持病も大きな病歴もない。本当に死とは、何もないところからいきなりやって来る。入浴中の宅急便ぐらい「え? いま?」という不思議なタイミングだ。 「慌てたりしないんだな。俺たちが見えるってだけでもかなりアレなのに」 「まぁ、昔取った杵柄(きねづか)といいますか」 若い死神は少しだけ黙り込んだあと、 「なんか心残りとかないの? やりたいこととか」 そんなことを聞いて来た。彼はすでに腰を下ろしていて、卓袱台(ちゃぶだい)に両肘をついて身を乗り出すようにして私へと顔を向けていた。 「そうですね。自家製カレーを食べておきたいとも思いますが、一晩煮込んで作るので間に合いそうにないですね。先週食べたし、別にいいかな」 「じゃあ、会いたい人とかは?」 私が口をつぐんだ間を埋めるように電気ケトルが鳴る。ガラスポットに紅茶の葉をいれ、お湯を注いだ。静かな室内に、甘みのある香りがふんわりと漂う。 花柄のティカップに紅茶を注ぐ。湯気が立ち昇るそれを持って、窓辺へと向かう。
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