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室内でもっとも日当たりの良い場所にある小さなテーブル。そこに置かれた写真立ての前にカップを供えた。写真のなかでは女性がほほ笑んでいる。見慣れた、しかし、二度と見ることが叶わない笑顔だった。
「会いたい人も、もういません」
「そっか」
そう呟くと若い死神は少し首をかしげてみせた。ちょっと唸って躊躇いがちに口を開く。
「……ちょっと気になってたんだよね。でも、直接聞く機会とかなくて」
上目遣いにそう前置きをして、
「人間って気づかないじゃん、今日が最期の一日なんだって。ほとんどの人間はそのことに気付かないまま死んでいっちゃうじゃん」
彼は不思議そうな表情をしていた。しかしそのなかには困惑や疑問が見て取れた。死神になって日の浅い彼にとって、人の生と死に対して思うところがあるらしい。
「この前さ、二十代なかばの男の一日に付き添ったんだけどさ」
テーブルに置いた手に視線を落として、語りだす。
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