まぎわに、さずける

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「遊んでた友達たちと、じゃあ明日、また今度、って笑って分かれてて。本人も友達も、その場の誰一人として次があるって疑ってなくて。でも無いんだよね。明日も今度も、もう無くてこれが最後なんだよって。……なんか、なんとも言えない気持ちになっちゃって」 私は死神のまえに紅茶を煎れたカップを置いた。 自分の手元にも同じものを置いて、卓袱台を挟んで正面に腰を下ろす。 青年の視線は紅茶へと注がれていた。赤みがかった液体から白い湯気があがる。そこに彼の顔は映らないが、そこに答えを探すようにじっとのぞき込んでいる。 「死神からすれば、最期の一日以外のなにものでもないでしょう」 私は紅茶を一口飲んだ。やわらかな香りが口の中に広がる。結局、妻が煎れてくれた味には追いつけなかった。 「しかし我々にとってはその一日は、これまでの日々の積み重ねから奇跡的に作り上げられたもの。一番新しく、一番若い自分で生きている。なので、死んでしまう人ではなく、いまを生きている人たちとしてその姿を見守ってほしい」 窓から入る陽射しと茶葉の香り。見慣れた室内に漂う、少しひんやりとした空気。私の日常。
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