まぎわに、さずける

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「叶わぬ約束をしていても、それはとても大切なもの。また今度、また明日、そう思い続けながら我々は命の灯が消えるその瞬間まで“生きている”のですから」 正面から彼を見る。若い死神は何かに気が付いたように目を(みは)っていた。 「残される方は寂しいですけどね。それでも生きていかなければならない。大切な人との死別を、自暴自棄の理由にしてはいけませんから。そうやって、生きていかねばならないのです」 「……そっか。まだ生きてるんだもんな。確かに、死に囚われてたかも」 死神が死に囚われる、という落語などがありそうで、あやうく笑いのツボに入りかける。 彼の表情を強張らせていた疑念の色はほとんど消えていた。わずかに残ったものは、彼自身で整理して折り合いをつけるだろう。熱心に書き込まれたノートを見る限り、彼にはそれが出来る気がした。 しかし、と、ついた吐息が湯気を揺らした。 これはあくまで私個人の所感に過ぎない。死に対する思いは人の数ほどある。恐れる人もいれば、縋るように望む人もいる。心身の状態から死との距離を悟る人がいる一方で、まったく意識の端にも捉えていない人もいる。
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