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泉。また会おうねーー    泉が旅立って1ヶ月が過ぎた。  陽翔とひよりは高校の卒業式に出席した。  泉の席には花束と泉の写真が机に飾られていた。陽翔とひよりは泉の席の両脇に立ち写真を撮った。ひよりが泉と写真を撮ると言い出してきかなかった。泉の机の上の花束と泉の写真の両脇に陽翔とひよりが立って写真を撮った。    「泉。卒業おめでとう、、」  陽翔とひよりは泉の写真に向かって言った。  写真の中の泉はいつもの優しい笑顔だった。  二人は卒業証書と花束を抱きしめていた。    「ひより、、泉に会いに行こう」  陽翔はひよりに微笑んだ。  「うん。きっと泉も会いたがってると思う」    二人は桜が咲き始めた校舎に別れを告げて泉が眠る霊園へと向かった。  陽翔の胸のなかには在りし日の泉の姿が次々と思い出されていた。    映画館で嬉しそうにしていた泉。  天体観測で一番はしゃいでいた泉。  そして、いつも優しい微笑みをくれた泉ー  そのどれもが昨日のことのように思い出されていた。霊園に着くと線香に火をつけて卒業式で後輩達から贈られた花束を陽翔もひよりも泉のお墓に供えて手を合わせた。    泉、俺たち高校卒業したよ。  泉も卒業おめでとうー    立ち上る線香の煙を見ていると泉が笑ったような気がした。ひよりは目にいっぱい涙をためていた。  「泉。私と泉はずっと親友だよ」  そう言っていつまでもいつまでも手を合わせていた。    「陽翔。今までありがとう」  「陽翔がいてくれたから泉もきっと幸せだったと思うよ」  「うん。きっと泉は幸せだったと思う」  「陽翔は4月から明生大に進学するんだよね?」  「うん。東京に行ってデザインの勉強をしようと思ってる」  「ひよりは福葉大(ふくようだい)に行くんだよな」  「うん。地元に残って学校の先生になりたいって思ってる」  「泉が生きられなかった分も精一杯頑張るよ」  「そっか。ひよりなら出来るよ」  「陽翔も東京行っても頑張ってよね」  「うん。いつか夢を叶えたらまたここに来て泉に報告したいと思ってる」  「あ、それとこれお手紙」  「ずっと前にお見舞いに行ったときに泉から預かってたんだ。陽翔に渡して欲しいって、、」  「ありがとう」  「それじゃ、ひより元気でな」  「陽翔も元気で、、」  やがて二人はそれぞれの道に向かって歩き始めた。日の光が眩しく霊園全体を柔らかな日差しが包んでいた。陽翔は霊園を出る前にもう一度、後ろを振り返った。泉が笑顔で手を振ったような気がした。泉。元気でね。また会おうねーー    「二宮陽翔様    陽翔。元気にしてるかな?  思えば陽翔は私の青春の全てだったよ  少し早く「さよなら」言わなきゃならなくなったけどサヨナラは言わないよ。  きっと、またいつか会えるよね、、  私は先に天国に行ってるから陽翔は自分の夢を叶えてね。約束だよ。  また、来世でも陽翔に会いたいと思ってるよ。    たくさん一緒にいてくれてありがとう。  たくさん笑ってくれてありがとう。  出会ってくれてありがとう。  これからの陽翔の人生が幸せなものになるように祈ってるよ。それじゃ、またね、、  私のこと忘れないでね    佐倉泉」    あれから5年の歳月が流れた。  僕は今日も佐倉美樹と仕事をしている。  偶然、同じ名前の泉の生き写しのような人と仕事をしている。  「二宮くん。提案資料準備出来た?」  「はい。大丈夫です!」  「午後いちで斎藤デザイン事務所に先日の桜のイラストの納品に行くわよ」  「準備しててね!」  「はい。了解です!」  美樹と陽翔は斎藤デザイン事務所へと営業車で向かった。営業車から見える景色は以前、泉と歩いた場所ばかりだった。二人は提案を終えると桜木公園のベンチでつかの間の休憩をとった。二人の手には缶コーヒーが握られていた。    「提案上手く行ったわね」  「はい。無事、納品出来て良かったです」  「ところで二宮くんはどうしてこのお仕事をしたいと思ったの?」  「約束なんです、、」  「約束?」  「はい。昔好きだった人との約束なんです」  「そんなにその人のこと好きだったの?」  陽翔はコーヒーをひとくち飲んで遠くを見つめた。  「その人は今も僕の中に息づいていてきっとこれからも僕の中で生き続けます、、」  「そっか。そんなに好きだったんだね」    「あ、桜、、」  美樹が手をかざすと手のひらに桜の花びらが落ちてきた。  「もう桜の季節なんだね、、」  気づけば公園の周りに植えられている桜の花びらが一枚また一枚と散っていた。    「もう、春だね」  「はい。またその人に会える季節が来ました」  「二宮くん、桜のこと嫌いじゃなかったったけ?」  「はい。その人との別れを思い出すので桜は嫌いです。でも、佐倉先輩と見る桜は好きです」  陽翔はそう告げると静かに散り続ける桜の花びらを愛おしそうに見つめていた。散りゆく桜を見ていると泉が笑ったような気がした。    fin  
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