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やがて季節は流れ暑い夏がやって来ていた。  ただ、この頃から泉は学校を休みがちになっていた。体調がすぐれず街の大学病院に通っているようだった。    久しぶりに帰りが一緒になった時に陽翔は泉に聞いた。  「泉。最近、学校休みがちだけど何かあったの?」  「、、、。」  泉からの返事はなかった。    「何かあったの?」  陽翔をもう一度聞いた。    「あのね、、驚かないで聞いて欲しいんだけどね。私。病気なんだ、、」  「え?」  「病気?」  「うん。原因不明の病で治療方法もないんだって、、」  「ってことは、、」  陽翔は言葉にならなかった。    「来年の桜見れないかもしれないんだ、、」  雨が降り続く音だけが聞こえていた。  陽翔は泉の言葉を聞きながら一体何故泉なのか。泉がいなくなるかもしれない、ということが考えられなかった。    「でも、何か治る方法あるよね?」  「今。主治医の先生と家族で治療方法を模索してる」  「でも、、どうなるかわからない、、」  泉は今にも泣きそうな顔になった。  陽翔は泉の肩をそっと抱きしめた。    「大丈夫! 大丈夫だから」  「俺がついてるから、、」  雨はいつまでも降り続き泉の涙のようにも感じられた。  「絶対。大丈夫だから」  陽翔はもう一度言った。    「陽翔ありがとう」  「私。頑張るから、、あきらめないから、、」  そう話す泉の頬を雨に紛れて涙が伝っていた。    それから学校で泉の姿を見かけることはなくなった。ひよりも元気がなく、泉の無事を祈ってるようだった。  泉が大学病院に入院したことを陽翔はひよりから聞かされた。泉のいない高校は陽翔にとってむなしく寂しくつらいものだった。きっと、ひよりも同じ気持ちだったんだろうと陽翔は思う。  陽翔とひよりは大学病院に泉を見舞いに行った。ひよりは大きな花束を抱えて陽翔は果物の詰め合わせを持って泉の病室を訪ねた。    「佐倉泉様ですね。 病室をお調べしますね。少々お待ち下さい」  「はい」  ひよりは今にも泣き出しそうな顔で大きな花束を抱きしめていた。    「303号室になります」  「ありがとうございます」  陽翔とひよりは病院の受付で泉の病室を聞いた。303号室を訪ねるとそこは大学病院の東棟の個室だった。    二人が病室を訪ねるとそこには少し痩せた泉が窓の外を見つめていた。病室にはたくさんの花束に飾られていて泉は二人に気づくと満面の笑顔を見せた。    「来てくれたんだね、、」  「泉ーー!」  ひよりは泉の顔を見るなり泉に抱きついて泣き出してしまった。    「ひより。大丈夫! 大丈夫だから、、」  泉も白く細い腕で精一杯ひよりを抱きしめていた。    「どうして泉なの、、どうして、、」  ひよりは何度も何度も泉の名前を呼んでいた。  泉の瞳からも大粒の涙が流れ落ちていた。    泉は陽翔に気づくと微かに微笑んだ。  「陽翔も来てくれたんだね」  「うん。体調は大丈夫なの?」  「大丈夫だよ。先生が少しずつだけど良くなってるって、、」  「そっか。それなら良かった。 俺たちがついてるから絶対大丈夫だから、、」    陽翔はポケットからお守りを出して泉に手渡した。  「陽翔、ありがとう」  「治療辛いだろうけど頑張れよな」  「俺たちはいつでも泉の帰りを待ってるから、、」  陽翔は力ない泉の手を握り優しく微笑んだ。  「約束だぞ! 絶対帰って来てくれよな」  「大丈夫。 絶対二人の元に帰るよ、、」  泉はいつもの優しい眼差しで笑っていた。    それから1ヶ月が過ぎた。  陽翔は再び泉の病室を訪れた。  泉はさらに痩せていて手首には点滴を受けるためのチューブが繋がれていた。    「陽翔、、来てくれたんだね、、」  「うん、、泉が退院するまで何回も来るよ」  「やっぱり、陽翔は優しいね」  「私。陽翔を好きになって良かった、、」  「え?」  「好きになって良かった、、」  泉はもう一度そう告げると静かに目を閉じた。    「一緒に行った映画楽しかったね、、」  「ひよりとみんなで見た星空綺麗だったね、、」  「もう一度、陽翔と一緒に歩きたかった、、」  「そんなこと言うなよ」  「ううん。いいの。自分の体のことは自分が一番良く分かるから、、」  「私の命はもう長くないよ、、」  「陽翔、、私のこと忘れないでね、、」  泉の瞳には覚悟のようなものが感じられていた。  陽翔は一つ深呼吸してから泉の目を見て言った。  「俺も泉のこと好きだよ。これからもずっと、、」  「私の分も強く生きて行ってね、、約束だよ」  泉は陽翔の手を握ると優しい眼差しを陽翔に向けた。  「約束だよ、、」  そして、もう一度そう告げると眠るように目を閉じた。    それが泉の最後の姿だった。  泉は夏が終わっても冬が終わっても退院することなく卒業間近の翌年の2月にこの世を去った。  もうすぐ春を迎えるとても寒い冬の朝のことだった。  
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