逃げ水

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逃げ水

 逃げ水。  彷徨える旅人を惑わせる魔物とされていたようだが、果たしてそうだろうか。  満たされた己を夢想して彼岸に渡る儚き希望を叶えてくれる聖者のようにも、私には思える。  だから、死んだ妻の後ろ姿が導いた廃ビルの屋上で彼女が微笑んでいるのは、私には僥倖でしかない。  今、そちらに行く。
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