1話 魔法使いとの出会い

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1話 魔法使いとの出会い

 街の表通りに並ぶ市場、その並びはいつも決まっていて変わることはなく、店に出る店員の顔ぶれもそう変わる事はない。  市場から少し外れた所にはパン屋があり、朝から焼きたての美味そうなパンの匂いを漂わせている。  そのパン屋が一番込み合う時間は昼時。  市場の屋台の店員や昼休憩中の職人などが、軽い昼食を求めて殺到する。  店の中は人で溢れ、店内を一周するには数十分を要するような密集率になる。  こなれた足取りでやって来たロボは、少し小奇麗な格好をすることで悪目立ちをする事なく中に入り、人で溢れた店内を小柄な身体と低い身長を生かしてスイスイと進み、あまり型崩れせずパンくずも零れないような固めのパンを選んでバッグに詰め込んだ。  店内には盗人を警戒した店員が目を光らせ、店の出入口を特に警戒しているので、少し膨らんだバッグを持ったロボは警戒される可能性が高いだろう。  ロボは店を出る前に少し離れた所にいた仲間に目配せをした。  フードを被って顔を隠した仲間は、出入口付近にある立て看板を、派手な音をたてて倒し、手に何かを持っている風を装ってその場から走り出した。 「おい! 待て!」  音に気付いた店員は仲間の方へと向かって行く。  その隙にロボは悠々と店を出た。  店内の混み具合と店員の動きにもよるが、毎回収穫は上場の方法だ。  ここでの収穫は茶色のパンが2つと白いパンが1つ。  白くて柔らかいパンは高いので入手するのが毎回難しいのだが、今回はラッキーだった。  この時間帯は他の市場なども混みあう時間なので、そちらで果物や野菜、出来るのならば肉を手に入れられれば最高だ。  ロボはそのままの足で市場へと向かった。  今日の収穫はパンが3つと葉物の野菜が1つ、パン屋の時と同じ方法で店主の不意を突いてかっぱらった、店先につるしてあった燻製の肉。  今日はこの辺りにしておこう。  肉は保存食材として大事に取って置き、少しずつ消費していくとして、他の野菜などはどうしようか。  ロボは根城としている路地裏を奥へと進んだ道にある、元々酒樽などを保管しておくために使われていた倉庫へと入ろうとすると、後ろから声を掛けられた。 「おーい! 今日の収穫はどうだった?」  後ろから声が聞こえ、その聞き慣れた声にロボは振り返らずに答えた。 「まあ、いつも通りだな。ダスティ」  ダスティはロボと同じ孤児だ。数年前に当時まだボロボロで誰も住んでいなかったここの倉庫を見つけて、住処にしようとロボが掃除をしているところに声を掛けられてきてから知り合い、それからずっとなんだかんだと付き合いが続いている。  ダスティはロボの住処から狭い道を挟んで向かいの二階建てのボロ屋の屋根裏に住んでいて、食い物がなくなった時などにやってきては、手伝わせてくれと言ってきた。  ダスティとロボは年齢も身長もほぼ同じなのだが、神経質で何事も考えてから行動を起こすロボとは対照的に、ダスティは楽観的で考える前に行動するタイプだった。  違うところと言えば、ロボは家族もいない独り身だが、ダスティには母親と妹がいるということぐらいだろうか。  ダスティは貧しい売春婦の元に生まれた子供だった。  人間の売春婦のお相手は獣人だったらしく、ダスティは人間と獣人のハーフだ。  全身を毛で覆われはしていないが腰から下には毛が生えていて、人間より鋭い爪を手足に持ち、頭からは灰色の耳が生え、人の倍以上太い腿とつま先立ちのような足は獣人譲りだ。  父親は犬種の獣人だったらしく、腰の辺りから生えた灰色の尻尾は大体揺れているのを見かける事が多い。  そのせいか性格も楽観的で人懐っこく感じる人柄だった。  望まれて生まれて来た子ではないらしく、母親のダスティへの当たりは強い。  それでもダスティがぐれたりすることなく、そこそこ真っ当に育っているのは、人間の妹の存在が大きいのだろう。  兄妹のいないロボには少し理解し難い感覚だった。  ダスティは被っていたフードを取っ払い、歯を見せて笑った。  上がった前髪から除く額には、薄く血が滲んでいた。 「んで、今日の収穫は?」  ダスティは近寄ってくるなり、ロボの手提げのバッグを覗き込んだ。 「おっ! 今日は中々の収穫量じゃねぇか。凄いな。じゃあ早速分け前をください!」 「お前そのデコどうした? 朝からそうだったか?」 「ん? ああ、戻る時にフードが取れちゃってさ。子供に見られて石を投げられた」  ダスティはあっけらかんと答えると、そんな事より早く分け前の話をしようぜ、といった顔でロボを見た。  ロボも深くは聞くことなく話を戻すことにした。 「まあ、半分ずつ分けるとして、パンは3つあるから一人1個半だな」  それを聞いてダスティは突然瞬きを高速でして、もじもじとしだした。  その行動をするときの心境はすぐに察っすることが出来る。 「お前の妹、また飯食わせて貰えてないのか?」  ロボの言葉にダスティはギクリとした顔をして、白状した。 「はい、その通りです…」  そして言いづらそうに目線を逸らした。 「なので、あの、ロボさえ良ければ分け前を少し多めに貰えると嬉しい……です……」  消えりそうな声で申し訳なさそうに頼むダスティに、ロボはため息を零した。  それを見てダスティは焦ったように言う。 「ほ、ほんとごめん! もしあれなら次は俺報酬無しで働くし、俺に出来る事なら何でもするし」 「あー、うるさい。わかったから喚くな」  ロボは自身の手元にパンを1つ残し、それ以外をダスティの腕に押し付け、両手の塞がったダスティに燻製肉を咥えさせた 「貸し1つだからな」  ロボの言葉にダスティは肉を咥えながらまごまご何かを言っているようだったが、何度も頭を下げて家へと消えて行った。  ロボは家に入ると、立て掛けてあるヒビの入った姿見の前に立ち、着ていた少し窮屈な襟付きの服を脱いだ。  首元に除く魚の鱗のような青色の痣にも見える模様をよく見ようと、肩まで伸びる長い髪を手でどけた。  右の鎖骨から耳のした辺りにまで伸びるそれは、物心ついた時から存在し、ここで生きていくには酷く邪魔だった。  幸いな事に襟付きのシャツを着て、伸ばした髪で隠せばそれほど目立つことはないので、なんとか生きていけている。  人間が大半を占めるこの街では、人間じゃない者はまともな職に就くことが出来ず、とても生きづらい。  ロボは襟元が伸びてきたラフな服を着て、寝床へと向かった。
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