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プロローグ 受難の日
「後ろ……向いて……」
「………」
「腰……出して……」
「は……い…………」
「もっと……上に…突き出して」
「………………」
「そう……腰だけ……上に……」
「ん………………」
始めの第一声を聞いたとき
どき。
心が怪しい音を立てて、嫌な予感がした。
それはましろがまだ何も知らなかった時の事、初めての彼氏に言われるがまま、何の疑念すら抱かずに従った時の事を思い出したのだ。恐怖で心がぎゅっと締め付けられる。体が動かなくなる。その後にどんな目にあったかを思い出して、体の奥から冷えて行く気がする……
そのまま骨ばった長い指が後ろから腰骨に回され、ゆっくりと優しい力で引き上げられた。
「大丈夫?」
(う……わ……)
心が驚きで悲鳴を上げる。
コクリ……
この時のましろは頷くだけで精いっぱいだった。
「はい。OKです。楽にして。じゃあ今日は、ここまでにしましょう……」
「あり…が…とうございました。」
心底涙目になりながら、動揺しているのを悟られたくなくて顔を伏せつつしどろもどろでその場を後にしたのは、午後も、それも随分日も高くなった頃の事だった。
そう。ここは病院。
先程の出来事は、リハビリセンター内で起こったことだった。センター内の出来事であるから、これも立派な治療の一環である。
ではなぜましろがこんなことになってしまったかと言うと……話は2週間ほど前にまで遡った。
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