1章 始まりは、お菓子の香り

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1章 始まりは、お菓子の香り

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 市内:某所ーー  「先輩!ご予約のケーキが見つかりません」 「後ろのアントルメケース見て!!!」 平日でも、賑やかにごった返す店内。 真白は昨年の丁度今時分から、地元で評判のパティスリーで働き始めた。 働き始めた。と言っても、厨房ではなく店頭での販売である。 都会の真ん中、ともすれば見逃してしまいそうな程植物で覆われたトンネルの先に、そのお店は存在していた。重たい木の扉を開けて中に入ると、そこには夢のような空間が広がる。 白い木に細工を施してある瀟洒な柱に、ぴかぴかに磨き上げられた床。白と使い込まれた木の深いブラウン、2色でセンス良くまとめられたフレンチシャビーシックな店内は温かみを残しつつも、誰が何処からどう見ても、お洒落と形容する他ない程洗練された空間だった。さらに天井からはアンティークな3つのダウンライトが下がり、その元でショーケースが異彩を放っている。中には大小30もの意匠を凝らされたケーキ達が誇らしげに輝いていた。 店内にはいつもふんわりと甘く、いつもバターと小麦の焼ける匂いが立ち込めている。見た目の華やかさとは裏腹に、常に盛況な店の調理場では人々が規律正しく持ち場を守ってきびきびと働き、接客の最前線ではまるで白鳥が泳ぐが如く表面は美しく振舞う一方、水面下ではバタ足の様相を呈して販売員たちは必死に働いていた。
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