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Day 139
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窓から差し込む西陽が傾いてきて、晴音の横顔がオレンジ味を帯びていく。
「だから、怖かったんだ」
君を、失うことが。
あの時と同じように、包んだ手のひらから、大事な何かが溢れてしまうことが。
僕の声が、病室に、融けてゆく。
黙りこくっている晴音。
僕も、これ以上何かを喋る気は起きなくて、ぼんやりと、ベッド脇の花籠を見つめる。
元気になってね、の文字が書かれた可愛らしいデザインのカード。
それを目にするだけで、彼女が、晴音が、いかに皆から愛されているのかが伝わってくる。
「……“ありがとう”」
向こうをむいたまま、彼女はそっと、ささやいた。
「教えてくれて、ありがとう」
静かに、鼻をすする音が聴こえた。
ふと、頬に熱を感じて手をやる。
久しぶりの感情が、気づかぬうちに、溢れていた。
「会わないほうが、いいと思った。もう一度、大切な人の最期なんて見たら、抑えられる自信がなかった」
ゆっくりと、僕はパイプ椅子から立ち上がる。
夕焼け小焼けのメロディが、どこからともなく聴こえてきた。
「……自信なんて、私もないよ」
病室のドアノブに手を掛けた僕に、いつものあの口調で、晴音は言った。
「死ぬ覚悟、実はまだ、できてないんだ」
ぴたりと、踏み出しかけた足が止まる。
無性に、振り向きたくなった。
どうせあの時のように、泣きながら、笑っているんだろう。
晴音のそういうところが何よりも嫌いで、痛々しくて、愛おしかった。
だから。
……だから。
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