Day 139

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Day 139

************************************************  窓から差し込む西陽が傾いてきて、晴音の横顔がオレンジ味を帯びていく。 「だから、怖かったんだ」  君を、失うことが。  あの時と同じように、包んだ手のひらから、大事な何かが溢れてしまうことが。  僕の声が、病室に、融けてゆく。  黙りこくっている晴音。  僕も、これ以上何かを喋る気は起きなくて、ぼんやりと、ベッド脇の花籠を見つめる。  元気になってね、の文字が書かれた可愛らしいデザインのカード。  それを目にするだけで、彼女が、晴音が、いかに皆から愛されているのかが伝わってくる。 「……“ありがとう”」  向こうをむいたまま、彼女はそっと、ささやいた。 「教えてくれて、ありがとう」  静かに、鼻をすする音が聴こえた。  ふと、頬に熱を感じて手をやる。  久しぶりの感情が、気づかぬうちに、溢れていた。 「会わないほうが、いいと思った。もう一度、大切な人の最期なんて見たら、抑えられる自信がなかった」  ゆっくりと、僕はパイプ椅子から立ち上がる。  夕焼け小焼けのメロディが、どこからともなく聴こえてきた。 「……自信なんて、私もないよ」    病室のドアノブに手を掛けた僕に、いつものあの口調で、晴音は言った。 「死ぬ覚悟、実はまだ、できてないんだ」  ぴたりと、踏み出しかけた足が止まる。  無性に、振り向きたくなった。  どうせあの時のように、泣きながら、笑っているんだろう。  晴音のそういうところが何よりも嫌いで、痛々しくて、愛おしかった。  だから。  ……だから。
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