君は確かにそこにいた。

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 ***  次の日も、彼女は木陰からじっと僕達の姿を見ていた。僕が腕に大きなガーゼをつけているのを見て、彼女は驚いた様子だった。 「大丈夫?痛そう」 「平気、平気。ちょっと階段で転んだだけだって。ママったら大げさだよな!」 「う、うん……」  実際、大した怪我ではない。今日も普通に鬼ごっこはできる。腕をすりむいたくらいでヒキコモリになるほど、男子小学生はヤワな生き物ではないのだ。  彼女は基本的に、鬼よりも逃げ役をやりたがった。自分が鬼をやるのは良くないと思う――彼女の言葉をみんながどう受け取ったかはわからない。ただ、彼女が人間じゃないかもしれないと気づいていた僕は、何か悪いことが起きるかもしれないと察したのだった。  実際、彼女が鬼をやらなければいけない機会はほぼ訪れなかったと言っていい。彼女は逃げ隠れするのが上手くて、鬼ごっこをやってもかくれんぼをしてもいつも最後まで見つからなかったのだから。 「君、本当にすごいね!」  僕が褒めると、女の子は嬉しそうに頬を染めた。その髪に、ひらひらと桜の花びらが舞い落ちる。花飾りみたいで綺麗。僕が花弁を取って彼女の頭にさらに乗せると、女の子はほっぺをさらに茹蛸のようにしたのだった。 「かわいい。お姫様みたい」 「ほんと?嬉しい」 「君は、桜は好き?名前がないの不便だな。サクラちゃんって呼んでもいい?」 「う、うん」  この時、彼女はちょっと泣きそうに見えたのは、気のせいだろうか。 「ありがとう。名前、本当に嬉しい」  この日、僕は今度は桜の花びらで滑って転んで突き指をした。  痛めたのは、彼女の髪に花びらを飾った右手の指だった。
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