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月が満ちる
満月の日、ユリシーズから手紙が届いた。
厭味ったらしい人たちに絡まれるような毎日を送っていたせいか、久しぶりにわくわくして胸が高鳴っていた。
……けれど、それを公爵様に悟られてはいけないので、使いの人から手紙を受け取る時は「ああそう」とだけ言って無関心を装う。
だいぶ演技派になってきた気がするわね。
ユリシーズから届いた手紙にはちゃんと封蝋印が残っていた。
つまり、誰かに無断で開けられた形跡はない。
これまであまり意識したことは無かったけれど、オルブライト家の家紋は狼が中心にいて蔦(つた)に囲まれているものだった。ノクスの耳と尻尾を思い出して恋しくなってしまう。
封蝋印は手紙を開けると粉々になってしまうから、読みたいのになかなか開けられない。
「誰か」
私が大きな声を上げると、部屋に護衛の一人が駆け付けた。
「ハサミを持ってきていただける? 手紙を読みたいの」
「……はあ。かしこまりました」
なぜわざわざハサミが要るんだという顔をされたけれど、理由までは尋ねられなかった。
興味を持たれていないと、こういう時は都合がいい。
すぐにハサミを手に入れて、封筒を切ることで狼のかわいい封蝋印も守れた。
そっと中の手紙を出す。
ただ手紙を読むだけなのに、ドキドキと胸がうるさくなってしまう。
ユリシーズから手紙をもらうのは、血塗られた薔薇以来だから。
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