死神伯と血塗られた薔薇

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クリスティーナ姫には刺激が強かったようで、「気分が優れないわ」と言ってソファに横になってしまった。 その姿を横目に、私はどんな返事を書くべきか悩む。 4日後には、この手紙を書いた男が私の夫になる。 そう思ったら、悠長にショックを受けている場合ではない。 「クリスティーナ様、私からユリシーズ様に返事を書いてもよろしいですか?」 「当り前よ。手紙に書かれている『クリスティーナ姫』はあなたのことなのだから」 ソファで横になりながら白い顔を蒼くしたクリスティーナ姫は言った。 守られて生きてきたお姫様にとって、死神伯の行動は劇薬らしい。 幸いなのか、私は耐え難い視線を浴び続けた経験がある。 厭らしい男の舐めるような目に比べたら、変な贈り物くらい、真意を聞けばいい分だけ気が楽だ。 と、思うことにした。 『ユリシーズ・オルブライト様 わたくしの到着を楽しみにしてくださっているとお手紙を読み、今から緊張してきました。 わたくしは男性と同じ空間にいることにすら、慣れていないのです。 薔薇の花束に掛けられていたのは、何でしょうか? どういう意味が込められているのか分からないので、ユリシーズ様のお心が計りかねます。どうか、無知なわたくしにお教えくださいませ。 クリスティーナ・フリートウッド』 手紙は、クリスティーナ姫の筆跡を完璧に真似て書くことができた。 クリスティーナ姫は滅多に人前に姿を現さないお方だったけれど、書いた文書はあらゆるところに送られていて、多くの方に知られている。 私は筆跡の練習をひたすらさせられた。 「あら、アイリーン。手紙が上手ね」 「どうしても聞かずにいられなかったのです。あの花束の意味を」 手紙を書いている間に、クリスティーナ姫はソファから起き上がって私の隣に立っていた。 もう気分は治ったのだろうか。 「血だらけの花束を贈って恋文を付ける人なんて、聞いたことがないわ」 「だから、死神伯だなんて呼ばれるのでしょうか?」 「死神伯と呼ばれたのは、戦場で彼に出会って生きていられた者がいなかったからよ」 そうか、それで死神伯。 ……本物の死神ではないか。 「戦場で出会うわけではないので、私は生きていられるでしょうか?」 「不吉なことを言わないで、アイリーン。あなたはわたくしの片割れ、絶対にまた再会できるわ」 クリスティーナ姫はそう言ったけれど、私たちが再会するのは色々とまずい。 ということは、あと4日後をきっかけに私もクリスティーナ姫と会うことは叶わなくなるのだろう。 「クリスティーナ様、私たちが再会するのは難しいですが……離れた場所から『女の戦い』が勝利を収めることを願っています」 「わたくしも、アイリーンの幸せを願っているわ。どんなに離れても、何があっても、あなたの諦めない心を思い出すことにする」 私たちはまだ、髪色を変えていない。 クリスティーナ姫は燃えるような赤い髪を脱色して金髪に近づけることになり、私は金髪を赤く染める。
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