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翌日。
ユリシーズ様から返事が届いた。
どうやら律儀な方らしく、今日は砂糖菓子が一緒だった。
変な毒が入っているかもしれない、と私たちが毒見役のところに持ってくと、それは正真正銘の砂糖菓子だった。
私とクリスティーナ姫は死神伯の手紙を恐る恐る読み始める。
『クリスティーナ姫
薔薇にひと手間を加えたことで、手紙の返事がいただけたのは嬉しい誤算でした。これからはずっと一緒にいることになるというのに、あまりに恵まれた事実が受け入れられずにいます。
薔薇に掛けたのは、豚の血液です。
昨日豚の生き血を使って腸詰を作ったのですが、あまりに美しい赤だったのでクリスティーナ姫を思い出し、薔薇にまぶしてしまいました。
ワインのような色だったのですが、変色しておりましたでしょうか?
血液は酸化が早いことを忘れておりました。
腸詰は、我が家にいらした時にでも。
ユリシーズ・オルブライト』
「……どうして豚の生き血を薔薇に掛けようと思ったのかしら?」
「腸詰の材料だったのですね。誰かを切ったわけではなくて良かったです」
「クリスティーナ姫を思い出し、薔薇にまぶしてしまいました、の下りが全然理解できないわ」
「やっぱり死神伯ともなると、価値観が独特なのでしょうか?」
そんなことをクリスティーナ姫と話しながら、どうやらユリシーズ様はどこかずれていらっしゃる方らしいという結論に落ち着いた。
私はあと3日後に実物の死神伯に会うわけだし、その方と婚姻……つまり夫婦になるわけだ。
夫婦ってことは、一緒にいる時間もある程度長いだろうし、出会ってすぐに同じベッドで寝ることに……。
不意に、父親に連れられた日の視線を浴び続けた記憶が蘇る。
背筋に寒い感覚が走り、ぞくりと身体が震えた。
「アイリーン、大丈夫?」
「あ、はい……」
クリスティーナ姫は私の表情が翳ったことにすぐ気づいた。
これまで生きてきて、こんな風に心配されたことはない。
家族でも何でもない、ただ顔が似ているだけのクリスティーナ姫。
家族に話せないどんなことも、クリスティーナ姫になら話せる気がした。
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