死神伯と血塗られた薔薇

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  *** 「アイリーン……!!」 「違いますよ。今はあなたがアイリーン、わたくしはクリスティーナです」 死神伯、ユリシーズ様の屋敷に向かう日。 クリスティーナ姫は朝からずっと泣いていた。 今日からは、彼女がアイリーン。私がクリスティーナ姫になる。 「やっぱり嫌よ、あなたが死神伯の元に行くなんて……! ずっとわたくしと一緒に暮らしましょう?」 「そう言っていただけるだけで、わたくしは幸せです」 いつもは凛々しいクリスティーナ姫が、私の出発に取り乱している。 「これまでの人生で、わたくしのために泣いてくれたのは、あなただけです」 「……アイリーン」 「これからは、わたくしがクリスティーナとなって帝国のために死神伯の伴侶を務めます」 「ごめんなさ……ごめんなさいっ……」 「泣かないで。あなたのためになれて良かったと、本心から思っているわ」 私の髪は真っ赤に染められていた。 目の前のクリスティーナ姫も、真っ赤な髪をしている。 「わたくしたち、本当によく似ているわね」 「ええ、本当に姉妹だった気がする」 二人で手を取り合って、お別れまでの貴重な時間を過ごした。 一緒に庭を歩きながら、他愛もない話で笑う。 この先になにが待っているかは口にすることも、考えることもやめにした。 クリスティーナ姫はよく知った侍女が側にいた方が心強いだろうと、実家から侍女のエイミーを呼び寄せてくれていた。 私の両親に取り計らってくれたらしい。 私の親のことだ、きっとお金か何かを用意されて喜んでエイミーを手放したに違いない。 「お嬢様……」 「エイミー、わたくしはもうアイリーンではないわ。お嬢様でもないのよ」 「はい、クリスティーナ様」 エイミーと一緒に馬車に乗り込む前、こちらをじっと見ていたクリスティーナ姫の元にもう一度駆け寄る。 「これからはアイリーンを、よろしくお願いします」 「任せて。あなたに負けないアイリーンを演じるのは難しそうだけど」 私たちは抱擁して、そして離れた。 クリスティーナ姫の水色の目が揺れたのに気付いたけれど、後ろは振り向かない。
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