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ユリシーズは部屋を出て行ってしまい、私はエイミーと二人で部屋に残される。
今日からここが……私の部屋。
「お嬢様、死神伯って、あまり怖くないのですね」
「確かにそうね……」
ユリシーズは身体こそ頑丈そうだけれど、人畜無害といった控えめな青年に見える。
まあ、人畜無害が死神なんてあだ名をつけられることは考えられないから、まだ私の知らない面があるのだろう。
「あれが戦場の死神で、血の薔薇を贈ってきた人だとは思えないわ」
「つまり、先ほどの姿は本当のユリシーズ様ではないのでしょうか?」
「どういうことなのか、分からないけれど」
さっきまでのユリシーズが素であれば、皇帝陛下が恐れるとは思えない。
もっと死神らしい姿をどこかに隠しているのかしら。
「考えても分からないことで悩んでも時間が無駄になるだけよ。今日は疲れたし、寝ましょう」
「そうですね、持ってきた服を出します」
私が公爵家から持たされたのは、少しの服だけだった。
正確に言うと、実家から何も持たされなかったから、公爵家からいただいた服だけを持って嫁入りになった。
ユリシーズは、公爵家のクリスティーナ姫ともあろうものが、こんなに少ない荷物で嫁入りしたことを不審に思わなかっただろうか。
それにしても、今日は覚悟していた展開にはならなそう?
少なくとも今は、こうやって別々の部屋で過ごすことになっているし。
「エイミー、二人きりの時でも、お嬢様はやめましょう。使い分けをしていると咄嗟の時に出てしまうわ。わたくしはクリスティーナ。フリートウッド公爵家のお姫様よ」
「はい、気を付けます」
私はこの先の生涯、ユリシーズに素性を明かさずに生きていく。
これまでの私はアイリーンだったけれど、これからのアイリーンは小さな子爵家から皇族に嫁ぐロイヤルレディになるのだから。
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