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『愛しいクリス様
お手紙でしか近況が知ることができないのは寂しいですが、貴女が実家で元気にしているようで心配だけは和らぎました。
狩りのことで怒らせてしまい、至らない夫だったのを深く反省しています。
大きな獲物に喜んでいただきたかっただけなのです。
これからは、もっと妻の意見に耳を傾けていい夫になれるように頑張りますから……どうかまた、私と一緒にいてください。
貴女がいない屋敷は、とても静かで物悲しい雰囲気がします。
貴女がいない人生が、どのように送れていたのか思い出せません。
そばで明るく笑い、優しい声をかけてくださる貴女が……至らないときはしっかりと叱ってくださる妻が、私には必要なのだと思い知りました。
会いたくて狂いそうです。抱きしめたくて叫びそうになります。
もう満月だというのに。
昼も夜も寄り添えない毎日は苦行です。
どうか、満月の夜は庭に出てください。同じ月を見ましょう。
生涯の夫 ユリシーズ・オルブライト』
「ユリシーズ……」
名前を呼んでもあなたがいない。
優しい顔が思い浮かぶのに、愛情深く私を見つめる時はどんな顔をしていたかもう思い出せなかった。
昼と夜が好き、と私は白い蝋を使って手紙に跡を付けた。
公爵家の人は私の手紙をチェックしただろうけれど、昼(ディエス)と夜(ノクス)が好き、と秘めるように蝋で書いた私に、その言葉以上の意味はないと思っているはずだ。
ユリシーズが好き。
昼も夜もかけがえのない人。
ハッキリ文字にしてしまうと、この感情から逃げられなくなった。
今日の夜、満月を見よう。この部屋のバルコニーに出て。
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