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「おはようございます」
食堂に着くと、昨日と同じようにユリシーズが席に着いていた。
その前の席に着き、目の前に座る男性を眺める。
「おはようございます……朝からお美しいのですね……」
ほうっと感嘆を漏らしながらそう言ったユリシーズは、銀色の目をキラキラさせていた。
朝から……昼から美しい方っていうのもいるのかしら? 私にはよく分からない。
「ありがとうございます。ユリシーズは、昨晩何をしておりましたの?」
「昨晩、ですか?」
しらばっくれるつもりかしら?
あの時、一瞬だけ目が合ったわ。
「外にいませんでしたか?」
「……いました」
「あんな暗い中で何を?」
「クリスティーナ様が安全に過ごせるように警備を……」
「警備とは?」
ユリシーズは、口ごもって何も言わなくなってしまった。
「夫婦なのに夫の行動が理解できないというのはどうなのかしら」
「あ……」
気まずそうに一度うなだれて、ちらりとこちらを見てきた。
私はずっとそちらを見ていますが。
「その、詳しくは言えないのですが、決してやましい気持ちなどなく」
「……では、話せる日が来たら教えてください」
「話せる日が来たら?!」
「来ないの?!」
どんな事情があるか知らないけれど、そのうち打ち明けてくれるかと思ったら。
……まあ、私も本当はクリスティーナ姫ではなく子爵令嬢のアイリーンだという事実を墓場まで持っていくつもりだったりするけれど。
「とりあえず、朝食にしましょうか」
ユリシーズはそう言って話を切り替えようと執事に朝食を持ってこさせる。
今朝の朝食はオムレツに茸のソテー、丸パンに野菜のスープ。普通。
「普通の食卓ですね」
「もしかして、公爵家はもっともっと立派な食事が出ておりますか?」
「いえ、そういう意味ではありません。手紙でユリシーズが豚を絞めたらしい雰囲気がしておりましたので、もっと奇抜な料理が出てくるのかと構えておりました」
「ああ、いえ、豚は新月になる前に生き血も含めていただくことになっておりまして」
「……それは、どういう習慣ですか?」
なんだか怪しい。まさか悪魔崇拝の儀式か何かを……?
「新月の日には獣の肉を食べないというのがオルブライト家に伝わる健康法なのです」
「健康法?? 聞いたことがありません」
「もう新月は過ぎましたから、獣の類は食べられます。お手紙を送った日は、ちょうど豪華な豚料理を食べた日でした」
つまり、私もこれからは新月に向かう前に豪華な獣料理とやらを食べ、そのあとは獣料理を控え、新月が終わったら普通に戻る、と。
「不思議な習慣ですが、覚えておきます。新月は月の初め、1日ですから分かりやすいですね」
豚の生き血は美味しくなさそうだけど、新月に向かって獣肉を控えるという食生活は面白い。
そう思いながら朝食をいただいて、時折、向かいに座るユリシーズの方を見る。
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