409人が本棚に入れています
本棚に追加
「ユリシーズは普段、どんなお仕事を?」
「……実は、戦地から戻ってどうしたものかと」
「どうしたものか??」
「お恥ずかしい話、これまではずっと戦地にいればそれが仕事だったのです。ところが戦争が終わってしまい、私の仕事は無くなりました。勲章やら褒章、領地経営やらで、別の仕事をしなくても充分生きては行けるのですが」
「なるほど……」
「家族がいれば毎日やることができると言われまして」
「結婚を決めたということでしょうか?」
ユリシーズは恥ずかしそうにうなずいた。
「皇帝陛下が何でも欲しいものを言ってみろとおっしゃったので、公爵家のクリスティーナ姫を望んでみたのです。皇帝だからそのくらい叶えて下さるだろうと期待をしまして」
「それなりに大変でしたよ?」
私が身代わりに立てられるくらいに。
「そうでしょうね。私もダメ元と言いますか、そんなのは無理だと言われたら諦めるつもりだったのですが……」
「その程度だったのですか?!」
「あ、いえ、そういう意味ではなくて、クリスティーナ様に勝手に焦がれてしまったのは私の都合なので」
まあ、クリスティーナ姫は素敵な人よね。
顔は私とそれほど違わないけれど、なんというか、お姫様らしい潔さがあって。
「わたくしの何が、そんなに良かったのですか?」
この人は、クリスティーナ姫のどんなところに惹かれたのだろう。
確か、一瞬だけしか目の前に現れたことがなくて、会話も交わしたことなんかないとクリスティーナ姫は言っていた。
「本人を目の前にして言うのは、なんだか緊張します……。クリスティーナ様は帝国の勝利のために私たちのところまでお越しくださいましたよね? 負傷者が多く、その場には絶望的な空気が流れていました。クリスティーナ様は負傷者ひとりひとりの目を見て、そして私たちに言いました。『帝国は、随分と傷つきましたね』と」
「……続けて」
覚えていないんじゃなくて、知らないから。
最初のコメントを投稿しよう!