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相続人
泣きはらした目をしたウィルとエイミーを連れて家に帰ったところ、出迎えてくれた他の使用人たちも一様に同じ目をしていた。ただ、暗いところでは光っていたけれど。
「おくしゃまああああ」
涙でぐしゃぐしゃのシンシアがいて、私はその頭をよしよしと撫でる。
「ただいま帰ったわ。やらなくちゃいけないことだらけだからバートレットとあらゆることを相談したいと思っています。いたらない奥様だけれど、ユリシーズがいない今、どうか一緒にオルブライト家を支えて下さい」
並んで待っていた使用人たちに向けて言うと、メイド長が鼻を啜りながら「勿論です、奥様」と答える。
「うぅっ……ご主人様は酷いです……奥様を置いて……奥様は人間なのに……」
シンシアは泣きすぎたのか嗚咽を漏らしている。
「そうね。私は人間だから、人狼と違って伴侶を追って死んだりはしないのよ」
使用人たちがグズグスと泣いている。
頭に耳が生えている使用人も、そうでない使用人も、みんな主人の訃報に落ち込んでいた。
ただひとり、バートレットを除いて。
バートレットはいつもと同じ調子で、「取り急ぎまとめた資料をお渡しします」と私に書類の一式を渡してくれた。「ありがとう」といつも通りの調子で返すけれど、他の人と調子が違っていて戸惑った。
部屋に戻ると、バートレットから渡された書類を読み込むことにする。
「あれ、屋敷の建物については所有者がユリシーズのお父様のままだわ。ユリシーズ、遺産の手続きをしなかったの?」
口に出してハッとした。
ここはユリシーズの部屋だから、自然に話しかけてしまっている。
「……この部屋にあなたがいないなんて」
色々なことがあったからだろうか。夜は更けているのに眠くならない。
外に明るい月が出ている。
誘われるようにバルコニーに出た。風が吹いていて、肌寒い。
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