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私はユリシーズの財産を継ぎ、領地経営から屋敷の経営までをバートレットと共に行っている。
オルブライト家の使用人たちが私を女主人として受け入れてくれるようになってきているのは、全てバートレットのお陰だ。
ペトラが誰よりも憔悴しきっているらしく、このままだと命が危険だと周りが必死にケアをしている。
そんな様子を報告されるたび、彼女は本気でユリシーズを愛していたのかもしれないと思った。
公爵家に攫われた件からペトラを許す気持ちにはなれないけれど、命を懸けるほどの想いを私が奪っていたとしたら、彼女にとって私は相当目障りだっただろうとは思う。
ユリシーズが亡くなった場所にあったという黒い手のひらサイズの布切れを見ながら、「あなたは罪な人ね」と呟く。
この遺品は皇帝陛下の手配で届き、ユリシーズの着ていた服の一部なのは分かった。
ユリシーズは熊か何かに襲われたと見られている。
「ねえ、ユリシーズって熊に負けるの?」
ユリシーズの部屋でデスクに座りながら、そばにいるバートレットに素朴な疑問をぶつける。私は喪に服しているため、毎日黒いドレスで過ごしていた。
「さあ……美味しくありませんから熊を狩ろうと思ったことはございませんが、ご主人様は当時、毒が抜け切れていなかったと思われますので」
「そう」
その日、ユリシーズは宿で公爵家の暗殺集団に囲まれて、滞在していた町から森に入ったらしい。
後を追った暗殺集団が2日後に見つけたのは、大量の血痕、細かく引き裂かれたユリシーズの衣服、野生動物が群がった痕だった。
それが皇帝陛下に伝わって、私やオルブライト家に訃報が届いたというわけなのだけれど。
あの人が、そんな最期を遂げたなんて。
いつまで経ってもその想いが消えない私は、この帝国のどこかにユリシーズが生きている可能性も考えながら、何人かを捜索に向かわせている。
「奥様、ご主人様の匂いが途切れた場所が判明しました!」
慌てたウィルが報告にやってきた。
ウィルを含めた何名かが、通常の仕事と合わせてユリシーズの捜索を続けている。人狼の嗅覚を活かし、森に入って匂いを追っていたのだ。
「明日、そこに私も連れて行ってくれる?」
「はい。かしこまりました」
オルブライト家だけで行った、棺もない葬儀が終わってから三カ月。
ようやくユリシーズの手がかりらしいものが見つかった。
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