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クリスティーナと話していると、パーティの主役である皇子殿下が私たちのところにやってきた。白い軍服を身に付けていて、何やら華やかだ。
「顔色は悪くないようだな」
「お誕生日おめでとうございます、殿下。やらなければいけないことがたくさんあるので、疲れて夜もぐっすり眠れるのです」
喪服でこんなことを言っていると、誰かに陰口を言われそうだけど。
皇子殿下は私のそばに近寄り、「ひとつ忠告がある。クライトン家が、恐らくアイリーンを狙っているぞ」と耳元で囁いた。
クライトン家……間違いなく、私の両親だろう。
「どうして皇子殿下がそんなことを?」
「クライトン家が怪しいと報告があった。フリートウッド家は降爵に伴い皇室の監視が付くようになったせいで頼れなくなったうえ、皇室に入ったクリスティーナにはそう簡単に接触できない。アイリーンを売って手に入れた莫大な金を全て賭博で使い果たしたらしいから、アイリーンが伯爵家を継いだ情報を手に入れれば動機には充分だ」
「そうですね……」
あの人たちのことなんてすっかり忘れていた。領地経営の勉強だとか、やらなくちゃいけないことが多いっていうのに、余計なことを考えてくれるわ……。
「殿下がご存じならアドバイスをいただきたいのですけれど……両親を退けるためにはどうすれば?」
「一番いいのは帝国法で戦うことだ。裁判を起こせ。余が裁判官を務めてやる」
「ヒューが自ら??」
隣でクリスティーナが驚いている。どういうことなのかしらと首を傾げると、クリスティーナは興奮気味に続けた。
「ヒューは帝国法を専門に学んでいる法律学者でもあるのよ。裁判官の資格も持っているのだけれど、自ら裁判を取り仕切ることは稀なの」
「それって大ごとですか??」
「それだけ、アイリーンの味方になりたいということよね?」
クリスティーナが皇子殿下に詰め寄ると、「未亡人にたかる輩を許しておけるか」と皇子殿下は気まずそうに言う。いや、心強いけれどなんだか申し訳ないというか畏れ多いというか。
「父上にも相談し、有利になりそうな証拠を各所から集めてもらっている。絶対に負けないようにしてやるから安心しろ。アイリーンが身代わり姫だということは皇室の外には漏らせない故、皇室が全面的に動くことになる」
「ありがとうございます……」
「気にするな。父上が撒いた種だ」
小さく「はい」とうなずくと、皇子殿下は別の集団のところに向かった。
なんとなく手持ち無沙汰で、私はクリスティーナと一緒に会場で配られている果実酒をいただくことにする。
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