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甲冑の兵士が男性を床に放り、私の前に立っている。どうやら警備が駆け付けてくれたらしい。
私の視界には甲冑……銀色の塊しか見えなくなった。
皇子殿下の誕生パーティだというのに貴族男性が床に放られていて、周りがざわざわし始める。
「何をするのですか! 私はただ夫人に話しかけていただけです」
男性が喚く。甲冑の兵士は何も言わずに立ち尽くしていた。
「わたくしは、あなたが彼女に抱きついたのを見たわ。おおごとにしたくなかったら、さっさと立ち去りなさい!」
後ろからクリスティーナが転がっている男性に向かって声を上げる。
「妃殿下! ありがとうございます!」
思わず、クリスティーナの方を見て周囲の注目をこちらに向かせた。ここは公の場だから、皇室相手となると男性は分が悪い。
男性は妃殿下と聞いてまずいと思ったのか、立ち上がって静かに会場の出口に向かっていった。クリスティーナは周りの方々から拍手を送られ、勇敢さを称えられている。
目の前に立っていた兵士は、男性が会場から去ったのを見届けてこちらを振り返った。
兜の中を見ることはできなくて、目が合っているのかも分からない。
「ありがとうございました。助かりました」
なんとなく目がありそうなところに目線を合わせて微笑む。
甲冑の兵士は急に手をバタバタとさせ、ガチャガチャと金属の音を立てた。
ひとしきり慌てたあと、敬礼をして廊下の方に走って出て行ってしまう。
任務中ではなかったの? ここの警備は……いいのかしら。
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