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過去との決別を誓う
皇子殿下の誕生パーティから帰ると、玄関でシンシアが顔をしかめた。
「奥様、変な匂いが沁みついています。パーティで誰かに触られましたか?」
「ああ。失礼な人に触られたわ……警備に追い払われていたけれど」
「嫌な人だったんですね……匂いがもう、ダメです」
「そんなに匂う?」
シンシアは白い耳をてっぺんに生やし、鼻と眉間に皺を寄せていかにも臭そうな顔をしている。
「ドレスとグローブはすぐに洗いましょう。奥様の御召し物にそんな匂いが移っているだなんて許しがたい事態です」
朝になってからでも良いのよ、と言おうと思ったけれど、こんなに臭そうな顔をされたらシンシアも早くその匂いから解放されたいのかもしれない。断れなかった。
「じゃあ、部屋で脱ぐからお願いできる?」
「はい!」
喪服が男臭いというのもちょっと嫌よね。私にはその匂いがよく分からないとしても。
部屋で服やグローブを渡してルームウェアに着替えると、脱いだ服を抱えたシンシアが苦しそうな顔をしながら走って行った。ふさふさの白い尻尾がぐるぐると回っている。
ごめん。これからは変な人に抱きつかれないように気を付けるわね……。
カーディガンを羽織って、裁判のことを報告しなくちゃと執務室にいるバートレットを訪ねた。デスクで真剣に書類を読んでいる。
「こんばんは。私、実の両親を相手に裁判をするかもしれないわ」
「さようでございますか」
こちらをチラリとも見ずに、バートレットは答える。頭の上の灰色の耳は全く動いていない。
「皇帝陛下が材料を集めてくれているらしいのだけれど、私、この家を守るために戦おうと思う」
「さようでございますか」
相変わらず、バートレットは何の関心もなさそうに書類を見ていた。
「私が再婚しなかったら、この家は存続できなくなるの?」
「養子を迎えられれば問題ございません」
「そう……」
養子かあ。
家族の作り方って、色々あるのね。血のつながりだけが家族ではないと思うけれど、オルブライト家を継ぐのにふさわしい人を選ぶのは大変そう。
「私の両親は色々と問題がある人たちだから、養子を迎えるにしても問題が解決してからでしょうね」
「さようでございますか」
「……ねえ、バートレットはユリシーズがいなくなって寂しくない?」
「……」
書類から目を離さずに、バートレットは固まる。
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