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「この家には、ご主人様の匂いがまだたくさん残っています。気配がするのに姿が見えないというのは何とも不思議で」
「そう」
バートレットも、まだユリシーズがいないことを受け入れ切れていないのだろうか。
「バートレットは、あれから泣いたの?」
「あれからと申しますと?」
「ユリシーズの訃報を聞いてから」
「……いいえ」
「そう。私と同じね」
「さようでございますか」
バートレットは、ずっと書類を見ていてこちらに関心を向けようとしない。
最初に出会った時からずっと態度が変わらなくて、信用がおける。
「バートレットが、急に優しくならなくてよかった」
「さようでございますか」
「それしか言わないじゃないの」
「返しようのないことばかりおっしゃるからですよ」
「あらそう」
あなたが執事で良かったわ、とでも言って労ろうかと思ったのに。どうせ「さようでございますか」しか返ってこないだろうから止めておこう。
「ありがとう」
「いえ。仕事ですから」
「分かっているけれど、お礼くらい言わせて」
「……礼など。オルブライト家に勤める者の役目を果たしているだけです」
素直でないというのか、なんというのか。
だけど、こういう時に憐れんだり慰めようとしてこないところにほっとしている私がいた。
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