408人が本棚に入れています
本棚に追加
***
私の両親がオルブライト領に来たのは、程なくしてからだった。
エイミーが慌てて私のところにやってきて「クライトン子爵が!」と息を切らしていて、とうとう来たかと覚悟を決める。
話が通じない人と対峙するのはここ数カ月で耐性ができたけれど、相手が実の両親となると自信がない。もう生存権を握られているわけではないというのに、これまでの虐待の痕は私の身体に刻まれたままだ。
「バートレットと一緒に行くわ」
「はい……」
エイミーは私があの人たちを恐れていたのを知っている。だから、こんなに心配そうな顔をしているのだろう。
バートレットを連れて応接室に入ると、よく知った二人がこちらを見て満面の笑みを浮かべた。シンシアがそんな二人にお茶を出している。
今まで向けられたことのない表情に、思わず怯んでしまった。
「オルブライト領は随分豊かなところじゃないの!」
お母様が、嬉しそうに言った。
「死神伯なんていうから、どんな辺鄙なところかと思ったら……伯爵領というだけはある」
お父様は満足げにうなずいていた。私が何も言い返せないのを見たバートレットが「ありがとうございます」と丁寧にお辞儀をしている。
「さすが、わたくしたちのアイリーンね。こんなところで現在は領主の代わりをしているんでしょう?」
お母様がにっこりと笑う度、脳裏にあの顔で鞭を振るった姿が浮かんだ。
背中にぞわりとした寒気が襲う。
「いやあ、私はこの通り足が不自由だからな。こんな豊かなところで暮らせたら最高だなあ、アイリーン」
「……」
何を言っているのですか、と返そうと思ったのに、声が全く出ない。
最初のコメントを投稿しよう!