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「お言葉ですが、クライトン子爵様……ここはオルブライト家ですのでお二方とは現状全く関係のない家ではないでしょうか?」
バートレットがハッキリと言い返してくれた。
感動していると、お父様の顔が急に険しくなる。
「使用人の分際で、口が過ぎるんじゃあるまいか? なあ、アイリーン」
「あ……」
しまった、と思うのに、バートレットを庇う言葉も浮かばない。
本当は私がここで言い返さなくちゃいけないのに。
「あなた、人様の家に来て使用人を咎めるのはやめましょう。わたくしたちは、アイリーンに援助を頼みに来ている立場ですよ?」
「ああ……」
予想はしていたけれど、私相手でもお願いをする以上は最低限の礼儀を尽くそうとしたらしい。そんなものすら今までは全く無かったことが、腹立たしくもあるけれど。
「私は、皇帝陛下に売られた身です。もう、クライトン家に対する援助はできません」
下を向いたまま言うと、先ほどまでの穏やかな雰囲気が一転した。
「この、恩知らず!!」
お母様は手元にあったお茶をカップごと投げ、見事に私の頭にヒットさせた。
痛みと熱さにびっくりしたのに、何も反応できない。
近くにいたシンシアが悲鳴を上げて「奥様!! 奥様あ!!」と叫びながら髪やドレスに付いたお茶を拭ってくれている。
これは……ちょっと火傷をしたかもしれない。
シンシアが泣いていて、変なところを見せてしまったと申し訳なくなった。
いまは、私が傷つけばこうやって傷つく人がいる。
「昔は、首から上には決して危害を加えなかったのに、変わりましたね……」
ゆっくりとお母様を見据える。
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