過去との決別を誓う

5/6
前へ
/551ページ
次へ
「何度言われても同じです。あなた方は私を売り払って自ら縁を切ったはず。今回の件も含めて、被害を訴えさせていただきます」 「何を……」 お父様は握った杖をこちらに振り下ろしたけれど、私の前に立ったシンシアの肘にガードされた。 シンシアは目に涙を溜めながら、フーフーと肩で息をしている。 「奥様を傷つけるのは、お止めください……」 お父様はシンシアの動きに驚いて、力を込めた杖がびくともしないので諦めたらしい。杖を降ろして、私を守ろうとするシンシアを眺めた。 「実の両親を訴えるというなら、勝手にすればいい。ロクに反論もできないお前が、裁判など起こせるとは思えないがね……」 「そうね、アイリーンはいつだって人形のようだった。反抗などできるはずもないわ」 お母様が高らかに笑う。屋根裏部屋に怯えていた私を思い出したのだろう。 「それでは、用がお済みでしたらエントランスまで送りましょう」 バートレットは早々に二人を追い出そうと促した。お父様とお母様も居心地が良くなかったのか、素直に席を立つ。 「考えを改めて、いい返事をくれると信じているわよ」 玄関を出ると、お母様はそう言ってくすりと笑って帰っていく。 二人の背中を見ながら、シンシアが私の腕にしがみついて震えていた。 「あんな人が……奥様の……ご両親なのですか??」 「そうね。親は選べないから」 「ひどい……奥様に手をあげるなんて……お茶のかかったところをすぐに冷やしましょう。ドレスも染み抜きをしないと……」 シンシアは歯を食いしばっている。「熱いお茶なんか出さなければ良かった」と悔やむその頭を撫でながら、あの短時間で大抵の事情を察したのかしらと思う。 「ありがとう、シンシア。あなたのお陰で目が覚めたわ」 「??」 「あんな人たちに踏みにじられてはいけないわね。このお屋敷の主人としても、オルブライト領の領主としても……」 「はい。でも、本来守ってくれるはずの親に虐げられるというのは、どんなにお辛かったのだろうと思います。奥様は、何も悪くないのに」 シンシアが私の腕に顔を埋める。きっと、また泣かせてしまった。
/551ページ

最初のコメントを投稿しよう!

409人が本棚に入れています
本棚に追加