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「何度言われても同じです。あなた方は私を売り払って自ら縁を切ったはず。今回の件も含めて、被害を訴えさせていただきます」
「何を……」
お父様は握った杖をこちらに振り下ろしたけれど、私の前に立ったシンシアの肘にガードされた。
シンシアは目に涙を溜めながら、フーフーと肩で息をしている。
「奥様を傷つけるのは、お止めください……」
お父様はシンシアの動きに驚いて、力を込めた杖がびくともしないので諦めたらしい。杖を降ろして、私を守ろうとするシンシアを眺めた。
「実の両親を訴えるというなら、勝手にすればいい。ロクに反論もできないお前が、裁判など起こせるとは思えないがね……」
「そうね、アイリーンはいつだって人形のようだった。反抗などできるはずもないわ」
お母様が高らかに笑う。屋根裏部屋に怯えていた私を思い出したのだろう。
「それでは、用がお済みでしたらエントランスまで送りましょう」
バートレットは早々に二人を追い出そうと促した。お父様とお母様も居心地が良くなかったのか、素直に席を立つ。
「考えを改めて、いい返事をくれると信じているわよ」
玄関を出ると、お母様はそう言ってくすりと笑って帰っていく。
二人の背中を見ながら、シンシアが私の腕にしがみついて震えていた。
「あんな人が……奥様の……ご両親なのですか??」
「そうね。親は選べないから」
「ひどい……奥様に手をあげるなんて……お茶のかかったところをすぐに冷やしましょう。ドレスも染み抜きをしないと……」
シンシアは歯を食いしばっている。「熱いお茶なんか出さなければ良かった」と悔やむその頭を撫でながら、あの短時間で大抵の事情を察したのかしらと思う。
「ありがとう、シンシア。あなたのお陰で目が覚めたわ」
「??」
「あんな人たちに踏みにじられてはいけないわね。このお屋敷の主人としても、オルブライト領の領主としても……」
「はい。でも、本来守ってくれるはずの親に虐げられるというのは、どんなにお辛かったのだろうと思います。奥様は、何も悪くないのに」
シンシアが私の腕に顔を埋める。きっと、また泣かせてしまった。
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