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「奥様、本日はご両親とお会いできて大変光栄でした」
突然バートレットがそう言ったので、私とシンシアは耳を疑って首を傾げる。
「奥様のご両親を訴えるということに、遠慮がなかったと言えば嘘になります。それが、本日のお二人を見て全くの杞憂だったのだと確信しました」
「……ええと、つまり?」
「遠慮なく、ぶっ潰す材料を集めさせていただきます。もう二度と、オルブライト家の敷居をまたがせるわけにはいきません」
シンシアの顔がぱあっと明るくなる。
「そうこなくちゃ」
思わず笑って、シンシアと腕を組みながら家に戻る。
私たちを見つけたエイミーが、「ちょっと、シンシアさん?! 奥様に馴れ馴れしく何を?!」と苦言を呈したけれど、シンシアはエイミーにペロリと舌を出して誤魔化した。
かわいいわね、と私が和んでしまっていると、エイミーが「メイド長に言いつけますよ?!」と怒り出す。
「そんなことはしないで、エイミー。さっきお父様に暴力を振るわれそうになったのを、シンシアが守ってくれたの」
「うふふ、そうなのです」
得意げに私と腕を絡めるシンシアに、エイミーはワナワナしている。
「上下関係をわきまえて下さい、シンシアさん!」
「まあまあ、私に免じて許してあげて」
「奥様はシンシアさんに甘すぎます!」
人狼がくっついてくれるのは慕ってくれている証拠なのよね。
エイミーだってウィルとちゃんと付き合えば、理解できると思うけれど。
「さて、皇帝陛下と皇子殿下にお手紙を出すわよ。両親を訴える準備が始まるわ」
この国の民事裁判は、原告と被告がそれぞれ証人や証拠を持ち寄って争うことになる。立ち合い人や裁判官は原告が自由に指名できるけれど、訴えを起こして主張をするのは原告である私……。
あの人たちを前にして自己主張をするのには、まだ不安があるけれど。
シンシアやエイミー、屋敷のみんなを守るためには逃げてはいられない。
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