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皇子殿下は手を挙げている兵士を見て、「証人は、その恰好で証言をするのか?」と呆れながら声を掛ける。
兵士は顔を覆っている兜を両手で持ち上げて、証人席のテーブルに置いた。
サラサラの黒髪に銀色の鋭い目を露出させた兵士は、私の方を射るように見て口角を上げる。
「なん……で……」
その光景に、小さな震えが止まらない。
「不死の死神伯は、一度死んだくらいではこの世から去れないらしい」
ユリシーズはそう言って、私を見ながら微笑んだ。
「……どういうこと? 私がこれまで、どんな気持ちで……」
「……アイリーン。お前に会いに地獄から蘇ったんだよ」
「そんな冗談は嫌いよ」
「そうか、すまない……」
ユリシーズは困った顔を浮かべて、片手を挙げる。
「証人の発言を認めます」
裁判官が許可をすると、「一時休廷を願います」とユリシーズは裁判官の方を見て訴えた。
「原告と話す時間を下さい。彼女をこんなに泣かせたままでは裁判が続行不可能かと」
そう訴えるユリシーズを皇子殿下はどこか苦々しい顔で見た後、「それでは、一時休廷を言い渡す」と声を張り上げた。
「再開まで一時間ほど待つことにする。被告と原告がここから出るためには見張りの兵士を同行させる。勝手な行動を慎むように。あと、オルブライト伯爵は兵士としては認めないので勝手に原告を連れて行かないように」
そこでまた小槌の音が響いた。休廷の合図だろう。
ユリシーズは私たちの間にある柵や段差を軽々と飛び越えながら、一直線に私のところまで走ってきて……私を抱き締めて頬を寄せる。
そうして、涙で濡れた私の顔に唇を当てていた。
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