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「あたしもよ、香帆ちゃん。ただ……それを、がっつり調べようって人たちが出てきて、最近ちょっと話題になってんのよね」
「どゆこと?」
「ユーチューバーの“モチタンメン”って知らない?女子大生二人組がやってる、オカルト系ユーチューバーなんだけど」
「げ」
その名前を聞いて、香帆は思わず濁った声を出してしまった。
オカルトを調べたがるユーチューバーは少なくない。自殺の名所を訪れたり、廃墟探検をしたり、やばい儀式を試してみたり。そういうものを動画としてアップすれば、一定以上の需要が得られるからだ。無論、オカルト系ユーチューバーの中には、ネットや書籍で情報を集めて動画にまとめるだけだったり、入っていい施設に入っ取材を行ったりするだけの者達も存在しているので、一概に悪だとは言えない。が、香帆たちからすると、ある意味天敵にも近い商売に違いないのだった。
何故か?都市伝説や怪談には、侵略者が息をひそめている本物が紛れている可能性が高いからだ。
それを積極的に、対処能力のない素人がつっつくことほど恐ろしいことがない。それでトラブルになり、オカルト研究会のメンバーが遠方まで“撃退”のため駆り出されるようなことも少なくないのである。ようは、自分達から言わせると“直接侵略者と戦う能力がないんなら、頼むから余計なことしないで!”というやつなのだ。
さらに厄介なのは、一部のオカルト系ユーチューバーはいわゆる“炎上系”をかねているということである。
やばい儀式を行うのみならず、立ち入り禁止の廃病院や廃校に足を踏み入れてトラブルを引き起こすことが珍しくない。そのトラブルというのは、侵略者絡みの事件であることもあるし、警察沙汰になることもあるという意味でもある。
ユーチューバー“モチタンメン”は、その中でもかなり過激な部類なのだった。二人とも霊感も何もないドシロートなのに、やばい怪談に首を突っ込むわ、法を犯すことも厭わないわの傍若無人ぶり。しかもそれは“幽霊を撮影するなら何でもやっていいと思っている”というより、むしろ“わざとやばいことをして再生数を稼ごうとしている”タイプだからタチが悪い。少し前には、かつて殺人事件があったというお宅に無断で侵入して、警察にお叱りを受けていたのではなかっただろうか。
「……私たちが一番嫌いなタイプのユーチューバーなんですが、それは」
香帆がしょっぱい気持ちで言うと、だろうねえ、と夏美が苦笑いをした。
「あたしも好きなわけじゃないよ、ああいう人たち。迷惑かけてでも注目集めたいってどんだけーって思うし。……ただ、そのモチタンメンがさ、この“なんでも願いが叶う迷宮”を調べますって宣言したんだよね。リクエストが来たみたい」
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