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言いながら、夏美はスマートフォンを取り出した。するすると画面の上で指を滑らせる。開いたのは、ユーチューブのアプリ。閲覧履歴から、例の動画を引っ張ってきて再生ボタンを押した。
これは、真剣に見た方がよさそうだ。香帆は自分が持っていたイヤホンを取り出すと、夏美に許可を貰って彼女のスマホに挿させてもらうことにする。こういうものは、細かい音が重要であるケースがある。というか、ここは自分の部屋ではなく学校の教室だということを忘れてはいけない。音が出るものを楽しむのであれば、なるべくイヤホンで音を流すのがマナーというものだ。
『皆さん、お待たせしましたあ!モチタンメンの!アッチーと!』
『マッチーでえす!』
ノッポの金髪の女性はアッチー。本名は坂巻愛良。せっかくハンドルネームをつけているのに、本名もみんなにバラしてしまっているのは一体何故なのやら。
もう一人のマッチーという女性は、坂巻愛良と比べると小柄でやや太っている。茶髪に色黒の彼女も本名をさらしていた。確か、小町明音、ではなかっただろうか。
二人は明るく元気にオープニングトークをしていたが、既に香帆は違和感を感じていた。
女性二人の目が、赤いのだ。充血しているというのではなく、瞳に妙な赤い光が宿っているのである。香帆の能力は、何かを見ることに長けたものではない――それでも、これは明白だ。彼女たちは、何かに取りつかれている。恐らくは、侵略者に。
『今回は、予告していた……願いを叶えてくれる迷宮、についてのご報告をします。結論から言うと、あたし達無事に迷宮に行って帰ってまいりましたあ、いえーい!』
ぱちぱちぱち、と自分で手を叩きながら言う愛良。
『で、その映像もばっちり撮ってきたの!ねえ、マッチー?』
『うんうん。正直怖かったしキモかったけど、その分本物の体験ができて楽しかったかな。迷宮の映像もばっちり撮れたから、みんな期待してね!』
『ではでは、みんなもそろそろ待ちくたびれましたよね?迷宮の映像、どどーんとお披露目しちゃいましょう。どぞっ!』
でででででーん、という派手なドラム音と共に。彼女たちが撮影したという、迷宮の映像が公開される。そして。
「うっ」
赤黒い壁が見えた瞬間、香帆は反射的に口元を抑えていたのだった。
こみ上げる吐き気。本能的に察してしまったからだ。これが、笑い話にできるような怪異ではないということを。
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