<1・インターネットの深淵にて。>

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 *** 「すっげえ」  ユーチューバーコンビ、モチタンメン。その“ノッポの方”アッチーこと、坂巻愛良(さかまきあいら)は思わず感嘆の息を漏らしていた。  今まで、相棒と共にいくつものオカルトスポットを調べてきたが。ここまで明確な“当たり”を引いたことは、未だかつてない。人がたくさん死んだという自殺の名所に言っても、呪われた村の跡地とやらに行っても、今まで一度たりともまともな映像を撮影することができなかったのである。  相棒の“チビの方”ことマッチーとは、大学時代同じミステリー研究会に所属していたことで知り合った。二人して、大好きなホラーを調べてユーチューブで天下を取ろうと誓い合った仲である。他のオカルト系ユーチューバーがやらないような危ない儀式をやったり、入ってはいけないような場所に入ったりでもすれば、すぐに数字は取れるものとばかり思っていたのだ。  実際、それは間違いなかった。ちょっとした“人気”なんかより、“炎上”の方がよほど動画の再生数は良かったのだから。  絶対に入ってはいけないというナントカの藪知らずにも足を踏み入れたし、かつて殺人事件があったという屋敷にもこっそりとロープを踏み越えて入っては中を撮影した。ひとりかくれんぼはもちろん、絶対にやってはいけないとされる儀式は一通り試したと思う。自分達が危ないことをやればやるほど、それを安全圏から眺めたい連中の支援は増えた。勿論批判してくる声は多かったが、本当に自分達を止めたいならば動画を見なければいいのである。やめた方がいいだのダメだの言いながら動画を見続け、チャンネル登録をするのはつまり、なんだかんだいって自分達の行為に興味があるからに他ならないのだ。  まったくもって、人間は矛盾とエゴに満ちたイキモノである。だからこそ愛おしいとも言う。  ただ、最近はそろそろ炎上系のネタも尽きて来たのは事実。いい加減、本物を撮影しておかなければ飽きられてしまう頃合いだ。  よって視聴者にやってほしいこと、調べてほしいことを募ったのだが――その中にあったのがこれ。“なんでも願いが叶う迷宮を調べてください”というものである。  その迷宮に行くには、あるWEBサイトにアクセスする必要がある。  そのサイトには、真っ暗な画面に、ただ一つ真ん中にドアのアイコンがあり、その真下にENTERと書いた文字がある。このENTERをクリックするとサイトの中に入ることができ、パソコンが真っ暗になって落ちるというのだ。  そして、パソコンが落ちると同時に、アクセスした人間とそれを見ていた人間の意識も落ちる。気づけば、願いが叶う迷宮に迷い込んでいるというのだ。  ダンジョンの再奥地までたどり着くと、迷宮の守り神がいて、その守り神に出会ってお願いをすればなんでも叶えてくれるとか、なんとか。
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