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『それらしいサイトを見つけたのですが、自分でクリックする勇気がありませんでした。モチタンメンさん、試してみて頂くことはできませんでしょうか?そして、それをできれば動画にしてほしいです』
ここまでお膳立てしてくれたのだ。他にも面白そうなリクエストはあったものの、愛良は直観したわけである。まさにこれは、自分達の為に用意されたようなミッションだと。これが本物で、その様子を撮影できたらきっと今までで一番の再生数になるに違いないと。
リクエスト者は、その迷宮の出口を見つけるか、守り神にお願いをすることで元の世界に帰れるのだと言っていた。ということは、実際に迷宮に行って帰ってきた人間がいたということではなかろうか。
「マッチーちゃん、撮影始めてる!?」
「う、うん。まあ」
マッチーこと、小町明音は、戸惑ったように頷いた。170cm超えの愛良に対して、彼女は140cm代の身長である。お互いに視線を合わせようとすると、どうしても首が痛いことになるのだった。
二人が目覚めたのは、床、壁、天井の全てが赤黒い壁に覆われた場所だった。前と後ろ、両方に廊下が伸びている。恐らくどちらかに行くと分かれ道のようなものに差し掛かって、それを選んで歩いていくことで先に進むことができるのだろう。いかにもゲームのダンジョンでありがちだ。
「出口を見つけるか、守り神様を発見してお願い事を叶えて貰えば外に出られるんだってさ。さあ、取材開始よ、マッチーちゃん!」
「ほ、本当に大丈夫かな」
「大丈夫だって!あたし達二人ならなんとでもなるわよ!今までどんなやばい儀式やっても平気だったんだから!さあさあ!」
「う、うん……」
何やら、既に明音は顔色が悪い。そんなにビビリだったっけこの子?と思いながら、愛良は彼女を引っ張るようにしてずんずんと前へ進んでいった。大きなカメラを持ってこればよかったと思うが、後の祭りである。まあ、互いのスマホを持ち込めただけで良しとしよう。残念ながら圏外なので生放送なんかはできないが、動画を撮影しておけば後でアップロードすることもできるはずだ。
適当にナレーションを入れつつ、二人で迷宮の奥へ、奥へと進んでいく。暫くして、愛良は困ったことに気が付いたのだった。
景色が、ちっとも変わらないのである。分かれ道が出るかと思いきや、さっきからそれさえ出現しない。いつまでも一本道のまま、天井も床も壁も赤一色の場所のまま。はっきり言って、見ている視聴者も面白くないだろう。それに、迷宮というからにはぐるぐると迷わされると思ったのに、ただただ同じ道を歩き続けるだけになるなんて一体誰が想像するだろうか?
「つまんないね」
はあ、と派手にためいきをつきながら愛良は言った。
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