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「何よ、守り神様ってどこー?歩いても歩いても変化なし、これじゃ視聴者が飽きちゃう!マッチーもそう思わない?」
「……ねえ、アッチーちゃん」
「ん?」
「あ、あ、あのさあ」
愛良が愚痴をこぼすと、明音は急に立ち止まってしまった。彼女の、スマホを持つ手が震えている。
「わ、私たち……ちゃんと聞いてないよね。リクエストしてきた人に……出口の見つけ方とか、守り神様に会うルートとか。こ、こ、このままずっと、歩かされ続けるだけだったらどうしよう?神様もいなくて、分かれ道もなくて、延々とここに閉じ込められ続けるだけだったら」
それは、そろそろ愛良も少しだけ不安に思い始めていたことだった。自分達は、本当に外に出ることができるのか。このままずっと迷宮の中に閉じ込められ続けるのではないか。この赤黒い道に、終わりなんてものはないのではないか――と。
それでも口にしなかったのは。そんなことを言えば現実になってしまいそうだからというのと、撮影中だからに他ならない。いざとなったらあとの編集でカットできるとはいえ、自分“アッチー”は明朗快活なお姉さんキャラで売っているのだ。怖いと思っても、下手に視聴者の前で弱音を吐くわけにはいかない。キャラが崩壊してしまうい。
そう、明音もそれはわかっているはずだというのに。
「じゃあ、そろそろ壁とか天井とか調べてみる?抜け道があるかもしれないし」
やや苛立ちながらも、どうにか我慢して明るい声を出す愛良。適当に近くの壁に触ってみることにする。本当に、どこかに抜け道があるという可能性もゼロではないからだ。
ところが。
「え」
愛良が壁に触れた途端。ずぶん、とその手が壁の中に埋まってしまったのである。それは、ゼリーか何かを触るような奇妙な感触だった。そう、硬い壁だと思っていたそれは、ゼリーのように柔らかいゼラチン状の物体で。
「うっそ」
何これ、と思って腕を引き抜こうとした次の瞬間。突き入れた愛良の右手を、誰かがぐいっと強く引っ張ったのだった。
「な、ちょ、何これ!だ、誰!?」
「アッチーちゃん?」
「だ、誰かがあたしの手を引っ張るの!ちょ、やめてよ、離して、離してってば!」
愛良がいくら叫んでも関係ない。ずぶずぶずぶずぶ、と腕が沈み込んでいく。このままいけば、このゼリーのような壁に飲み込まれてしまうのは明白だった。そうなれば、確実に窒息してしまう。いや、下手をしたらそれよりも恐ろしい何かが。
「やめて、離して、離して、い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
赤黒い迷宮に木霊する悲鳴。
それが新たな惨劇の始まりに過ぎないだなんてこと、愛良には知る由もなかったが。
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