<2・手札事故とご相談。>

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 ***  異世界。  そう聞いた時、ラノベの影響もあって中世ヨーロッパ風異世界を想像する人は少なくないことだろう。トラックに撥ねられたら異世界で、女神様にチートスキルを与えられて、美女に囲まれながら魔王を相手に無双する――とか。あるいは、気がついたらゲームの悪役令嬢になっていて、断罪ルートを回避するために死ぬ気でフラグ折りに走るとかなんとか。勿論、そういう妄想をするのは悪いことではない。むしろ、つらい現実を忘れるためには夢のある話を楽しむのも悪いことではないだろう。  が、本来異世界と言う言葉は“こことは異なる世界”という意味でしかない。勇者がいたりダンジョンがあったり魔法があったり悪役令嬢がいたり、なんて世界だけを異世界と呼ぶわけではないのだ。  香帆たちが存在する現代日本、そして地球という世界は。次元の海に浮かぶ、小さな島のようなものなのである。海にはたくさんの島が浮かんでいて、それぞれまったく異なるシステムで世界を構築している。そう、異世界というものは現実として存在するのだ。香帆たちオカルト研究会は、それをよく知っているのである。同時に、異世界というものは夢や希望に溢れたものではなく、むしろこの世界に害を齎すものも少なくないということも。  無論、きっと星の数ほどある世界のどこかには、中世ヨーロッパ風の魔法とかドラゴンとかの世界もあるのだろうが――少なくとも今、この地球に危害を加えようとしているのは、そんな楽しくて明るい世界などではないのだ。  彼らがどういう存在なのか、わかっていることはあまりにも少ない。  ただ、この世界の人間が足を踏み入れて耐えられる世界ではないだろうということ、そして彼らがとある方法を使ってこの世界を侵略して来ようとしているということまではわかっている。  その侵略方法とは、この世界に存在する“怪談や都市伝説”に擬態すること。  異世界同士は本来不干渉である。世界から世界へは、一般的な方法で渡ることはできない。仮にそんな方法があっても、異世界に行った時点で基本的に地球人の肉体と精神は耐えられない。が、それは実は“あちらからの侵略者”にとっても同じことなのである。  彼らはそのままの姿では、この世界そのものに弾かれてしまう。もしくは、適応できずに命を落としてしまう。ゆえに連中は、この世界を手にするために考えたわけだ――世界に弾かれないために、この世界に存在するものに化ければいい、と。  この世界に数多く存在する怪談。それらに化けて、彼らは人間を攻撃してくるのだ。  トイレの花子さん。  理科室の動く人体模型。  異世界へ行くエレベーター。  きさらぎ駅にくねくね、などなどなど。  怪談や都市伝説と呼ばれるものには基本連中が潜んでいると思っておいたほうがいいのである。そして、この世界の人間が奴らを根絶することはまず不可能だということも。 ――だから、私たちには。奴らを一箇所に誘き寄せて撃退し、元の世界に追い返すしか、方法がない。  誘き寄せるための場所として、この学校がある。
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