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第4話:親の顔より見た周回ステージを舐めていた
ネアンの森。「黎明のリュミエール」ではレベル上げのための周回ステージになっていた場所だ。
ゲームではゴブリンやスライムの二種類が主に生息しているという情報しか分からないため、親の顔より見たステージといえどディアにとっては未知の場所と言ってもいい。
本当ならば情報収集等の準備を万端にしてから、といきたいところだが、最悪な事に「今日中に」という時間制限がある。
ディアはとりあえず従者のリンの目を盗んでどうにか屋敷を抜けだした。
「──はぁ!? ネアンの森に行きてぇだぁ!?」
「しーっ! 色々と訳ありなんですから大きな声を出さないで!」
ディアは口に人差し指を当てた。運送屋の男は「おっと」と口を押さえると、怪しいフードマントに身を包むディアをジロジロ観察する。
「ネアンの森はアンタみたいなおこちゃまが行くところじゃねぇよ。悪いが、俺だって他人の自殺を手伝う気はねぇ」
「自殺なんかしません!! 運送屋さんの移動魔法を使えば、今日中に森にたどり着けますわよね? 私、どうしても今日森に行かないといけないんです!! お願いします!!」
「う、うーん……。嬢ちゃんに何か事情があるのは分かったが……」
運送屋は顎に手を当てて、迷っているようだ。
(主人公が原作にて運送屋で移動する場面を思い出して正解だったみたいね。移動魔法で任意の場所に行くには、発動者が実際にそこへ行って魔法陣を残す必要があるらしいけれど……。おじさんの言い方からして、彼自身は森に行ったことがあるみたい)
──ならば、と。
ディアは懐から強い輝きを放つ真っ赤な宝石の指輪を取り出した。こういう時のためにと家から持ってきたものだ。後で母からこっぴどく叱られることを覚悟して、運送屋に見せつける。
運送屋は案の定、目を見開かせた。
「お、お、お嬢ちゃん! こりゃあ……!!」
「これが往復分の代金です。お願いだから、すぐに私を森に送ってください!」
「へ、へい!! 勿論ですとも! ちなみにこっちに帰る時は俺の魔法陣に触れて待っててくれよ。すぐに転送するからよ!」
「分かりましたわ」
どうやら宝石は効果てきめんのようだ。運送屋が手を揉み始めた。
さっそくディアの足元に慣れた手つきで魔法陣を描き始める。
「よし! それじゃあ転送するぜ、嬢ちゃん! ……あっ! そういや言い忘れてたが、移動中にどこか身体の部分がなくなっちまっても責任は取らねぇからよろしくな!」
「えっ!?!?」
「先に言え」と怒鳴りたくなるような恐ろしい忠告の後、すぐさま視界が真っ暗になる。ディアは思わず目を瞑った。
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