第4話:親の顔より見た周回ステージを舐めていた

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 数秒後、目を開けた時には森の中だった。  自分よりも背の高いきのこに、どこかじめっとした空気感。昼のはずなのに日光は木々に遮られ、薄暗い。湿った草木と土の匂いが鼻を擽る。 「間違いないわ。ここは確かにネアンの森。周回の際に何度もステージの背景を見ているから、分かる!」  作戦は成功。次は魔花を探すのみ。 「えっと、魔花は確か魔法を宿している者が近づけば光るお花だったはず。どんな見た目のお花なのかは分からないけれど、そこらへんをウロウロしていればきっと見つかるわよね。お守り程度だけど魔物よけの護符も持ってきたし、音を立てずに気配を殺して歩けばきっと大丈夫……」  ──でも、もし見つかってしまえば?  そんな不安が心を襲った。ぎゅっとドレスを握り締める。恐怖を払うように首を振った。  怖いのは当たり前だ。まだ魔物に対抗する手段がないくせにこの森に来た自分の愚かさを誰よりも自分が分かっているのだから。  だが、この機を逃してしまったら約束通り、リオンはディアの話を聞いてくれないだろう。   (でも、まさかこんなことになるなんて。初っ端から難易度が高すぎだわ……)  ディアはため息をこぼした。 「リオンとの接触を一番に選んだのは、もしかしたら本来のディアの感情が私にも宿っているのからかしらね。ゲームのディアはずっとリオンと仲良くなることを望んでいたから」  だが皮肉な事に、ディアが死亡する確率はリオンルートが圧倒的に高い。  ()()()()()()からして、仕方ないのかもしれないが。  「黎明のリュミエール」の攻略キャラ達は各々闇を抱えている。リオンも例外ではない。  リオンは実はディアの実の兄ではない。元々は従兄妹だったが、養子としてヴィエルジュ公爵家に入ってきたのだ。  リオンの本当の両親はドラゴンに喰われ、死んでいる。……リオンの目の前で。  その時、リオンは無惨に喰われていく両親を見て、こう思った。  ──人間では、魔族に勝てない、と。  ならばどうするか。魔族よりも強い人間を()()()()()。  故にリオンはヴィエルジュ家に入った後、両親を失った孤独を抱えながらも魔族・魔物の研究に明け暮れていた。  ちなみにリオンルートのクライマックスでは好感度がMAXでもリオンの闇落ちは不可避になっている。魔族の血を飲み続けることで魔族化を果たしたリオンが主人公や攻略キャラに襲いかかるという展開に必ずなるのだ。バッドエンドでは主人公がリオンに殺されるか、他の攻略キャラにリオンが殺されるかのどちらかだった。  ハッピーエンドではリオンの魔族化を主人公が治癒魔法の奇跡で食い止め、リオンは人間に戻ったはずだ。 「そう考えるとやっぱりリオンから魔法を習った方がいいわね。彼の魔族の研究に費やす時間も減らせるわけだし」  ディアはリオンルートの流れを思い出す。  たしか、リオンルートの終盤では『両親を失った孤独で気がおかしくなって、魔族化(こんなこと)をしてしまったのかもな……』というリオンの台詞に対して主人公が泣きながら『もっと私が早く貴方に出会い、傍にいたかった』と言う場面があった。  あの場面はクリス様推しのディアも思わずうるっと泣いてしまいそうだった。  つまりはリオンを独りにする時間も減らせば、リオンルートのバッドエンドを防ぐこともできるというわけだ。これはリオンルートで殺される確率が高いディアにとって大きな収穫である。   「ついでにクリス様も誘って一緒に魔法の指導をしてみるのもいいかもしれないわね! リオン×クリスのカップリングを傍で観察できるいい機会になるだろうし……うふふ!」  そんな事を考えている途中で、ディアはハッとした。視界の端で何かが光ったような気がしたからだ。  まさか、と思いそちらを見てみると──少し先の辺り一面に地面を埋め尽くすほどの様々な花が輝いていた。ディアに反応して光度が変わっているため、おそらく魔花で間違いない。 「い、いつの間にこんな魔花が!? 全く気付かないほど考え事をしていたのかしら……。はっ! そんなことよりも、早く魔花を取ってさっきの運送屋の魔法陣にもっていかないと! ふふ、これでリオンにも認められるわよね! 私の偉大なる作戦への大きな一歩だ、わ……? ……あれっ?」  足を踏み入れたその瞬間──ぐるんっと視界が揺れた。 「え、」  地面には落とし穴があったのだ。それに気づいた時には体中を透明の粘膜が覆っていた。 (これは──スライム!? もしかして、今の魔花は幻覚!?)  この森のきのこ達の胞子には幻覚作用でもあったのだろうか。ゲームではたかが周回ステージのそんな細かい描写などあるはずもないから分からなかった。  そう考えている間にも、ディアは息苦しくなる感覚に襲われていた。このままでは溺死してしまう。  前世で風呂で溺れた記憶がよみがえり、ディアはパニックになる。 (なんてこと! 嫌だ、死にたくない!! まだクリス様愛されルート計画の序盤も序盤だってのに!! ここで私が死んだら、誰が彼らをバッドエンドから守るっていうの!? 私はまだ、ここで……っ!! ここで、しね、ない……のに……)  意識が朦朧としてくる。スライムに包まれている皮膚が少しだけ熱を持ち、溶け始めているのが分かった。 (お願い、だれか……誰か、たす、け──)
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