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生きたまま腹を裂かれ腸を引きずり出されるのを想像して、ぎゅっと両目を瞑る。そんなことになるくらいなら自決をした方がいくらかマシだろう。残念ながら剣は手元になく、少しの逡巡の後、決して楽な逝き方ではないが自身の舌に歯を立て力を込める。歯が肉に食い込み痛みに顔をしかめたせいか、エルトの企てに気が付いた他のオーガが彼の頬を乱雑につかみ、咥内に指を押し入れる。太くキツい臭いのその指に堪らず、噛んでいた舌を離して嘔吐く。どうして邪魔をするのか。どうせ食うなら生きていても死んでいても同じことではないかと、恐怖に麻痺した感情は憤りに傾き、眉間にしわが寄る。 食われる。志も半ばでこんなところでたった一人死んでいくのか。強く目を閉じ決して泣くまいとするが少年の域をようやく抜けたばかりの青年の顔は未練に満ち、合わせた瞼が細かく震える。空気が動くのを感じ無意識に呼吸が止まり、襲い来るであろう強烈な痛みに意識しなくと体は硬く強張って、視界を閉ざした闇の中でその時をただ待つ。
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