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洞窟内は静かで、聞こえるのは微かな水の音と自分の息遣いのみ。ふと、人の気配を感じてそちらに視線を移すとそこにはあのオーガの姿があった。 咄嵯に逃げようと試みるが、やはり上手く力が入らない。 「おい、無理をするな」 態勢を崩して倒れ込んだエルトは駆け寄ってきたオーガに支えられる。 「っ、触るな!」 醜悪の見た目と獣のうめき声のような声。生理的な嫌悪に反射的に腕を振り払う。エルトは自分の身体を掻き抱くようにして身を丸くすると、カタカタと小刻みに震え出す。 その姿に驚いた様子のオーガだったがすぐに元の表情に戻り、再び近づこうとするが、それに気付いたエルトが更に威嚇するように睨みつける。看病されていた時は仕方がないが、それ以外で体を触られるのは御免だった。 「それ以上近づいたら舌を噛み切って死んでやる!!」 脅し文句にしてはありきたりでかなり幼稚なものではあるが、果たして通用するだろうか。 そう思ったのだが、効果は抜群で、ピタリと動きを止めるとその瞳は動揺の色を見せる。
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