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危険なことと分かっているが、心を蝕む恐怖に耐えられず何度も呼び掛ける。どうせこのままでは遅かれ早かれ魔物に見つかり殺されると、何度も呼び掛けるうちに僅かな足音が耳朶を打つ。 その音は二足で進む者の足音で、助けが来たのかと安堵するが、足音の主が近づくたび聞こえる荒い息と、特有の鼻を突く異臭。明らかに人間のものでない気配に冷や汗が流れ呼吸が乱れる。これは違う、これは駄目なやつだ。動きを大きく制限された両手足を上手く使って移動を試みるも、焦れったい速度でしか進めず逃げることは諦める。代わりに比較的近くにあった岩陰に身を隠し、息を潜める。足音は一つではない。おそらく二、三はあるだろう。加えてわずかに湿ったような、何かを引きづるような音も少し遅れて聞こえてくる。 人間が歩むのとは違う、重すぎる足音を響かせながらエルトの10mほど手前まで進むとそれらはその場に鎮座した。必死に隠れているエルトには見えていないが、禍々しいその存在の近くには幾つかの人間の……、いや元人間だった破片たち。湿ったような、ぐちゅぐちゅとおぞましい音を立てながらそれらを貪るそれはまさに怪物そのもの。
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