1

8/11
前へ
/109ページ
次へ
不気味な音を不審に思ったエルトはそっと顔を覗かせその光景を目の当たりにしてしまう。これがいけなかった。きっとベテランの冒険者なら乗り切れただろう状況で下手を踏んだのは彼がいくら強くとも新人であったからに他ならない。 肉塊と化していながらも、まだ人と分かるそれを貪る光景に小さく漏らした悲鳴は人間なら聞き取れずとも、あらゆる感覚が優れた魔物が聞き取るにはあまりに十分すぎる音となって大気をくすぐった。爛々と光る黄ばんだ目に捉えられたエルトは身を竦めて少しずつ後退するも直ぐに岩壁に背中がついてそれ以上後ろに下がれなくなる。 エルトに気が付いた目の前の化け物はゆっくりと立ち上がると、距離を詰めてくる。その一歩はエルトの身長などゆうに超すであろう歩幅で、あっという間に凶悪な姿形が目の前まで近づき荒い鼻息に髪が揺れる。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加