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「すみません警部。俺が居ながら」
「気にするな。お前達が居合わせたのが不幸中の幸いだ。誘拐なら時間勝負だからな」
上司である警部ウォーカーは、リーフの肩を軽く叩いた。
白みかけた空を集まった応援車輌のパトランプが染めていた。リーフとバニラの脇を抜けた車が、歩いていた女性を拉致し走り去ったのだ。
「警部。お、お疲れ様です。逃走車の手配を。その、しておきました。あ、盗難車だった、みたいで」
競走馬の美しい尾のように髪を束ね、声が小さく自信なさげなバニラに、リーフとウォーカーは苦笑いを浮かべた。
「車の形状からナンバーまでバッチリだったじゃないかバニラ。もっと自信持てよ」
現場でのバニラは声も態度も小さい。自分から発言はするものの、どこか遠慮がちに話すのだ。
「ご苦労様バニラ。で、女性は?」
サスペンダーが服の柄に見えるほどフィットした体をバニラに向け労ったウォーカーは、リーフに真顔を向けた。
「はい。落ちていたバッグに、イザベラ・テイラーの学生証が」
「その名前。まさか紳士服メーカーの?」
「はい。社長ゴードン・テイラーの娘かと」
「もう顔見知りの線は薄いか。お前はイザベラの家に。バニラは私と一緒に、おっと二人とも明けだったな」
身振りで指示を出していたウォーカーは、二人が休みだったことに気が付き頭に手を当てた。
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