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しかし、喉の奥に悲しみが詰まり空気を通さないかのように、言葉が出てこなかった。
それを言えば本当にいなくなってしまうような気がした。終わりなんだ、と自覚してしまう。
その間にもパンダはゆっくり立ち上がり、力無く尻尾を振っていた。
私の言葉を待っていることは分かっていても、溢れるのは涙ばかり。
ありがとう。
ずっと一緒にいてくれてありがとう。
ここまで生きてくれてありがとう。
ちょっとしたことで喜んでくれてありがとう。
家族になってくれてありがとう。
パンダになってくれてありがとう。
ごめんね。
いつも家で待たせてごめんね。
いつしか自分のことで忙しくなって、あまり遊べない期間があってごめんね。
ずっといるのが当たり前だと思っててごめんね。
もっと早く家族になれなくてごめんね。
パンダなんてややこしい名前をつけてごめんね。
色んな言葉が頭の中を巡る。同じ数だけのありがとうとごめんね。
けれど、パンダが欲しているのはそんな言葉じゃない。
私は全てを飲み込んで、ようやくその言葉を口にする。それを言うのはこれが最後だ。
「……いいよ」
するとパンダは嬉しそうな顔をして、ゆっくり弱々しくも一歩ずつ私に近づき、膝の上に体を預けた。
膝の上にある身体中から力が抜けていくのがわかる。
小刻みに聞こえる呼吸音が徐々に弱まっていった。嗅ぎ慣れたパンダの匂いが、すぐそばにいるはずなのに恋しい。
まだ私の声は聞こえているだろうか。どうか聞こえていてほしい。
そんな期待を込めて、私は言う。
「パンダ、愛してるよ。今度生まれてくる時も……この家でパンダになってね」
いいよ、とどこからか聞こえた気がした。
私はパンダの背中に顔を埋めて、残っている温もりを精一杯感じる。
最後まで、私の涙はパンダが受け止めてくれた。
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