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悲しみという感情には波があるらしく、落ち着いたと思えば一気に押し寄せるものだ。それでなくても過去を振り返ったせいで、目頭の熱はどんどんと高くなった。
鼻の奥からじわじわとした感触が上がっていき、視界が揺れる。
徐々に目尻が重くなり、熱が頬を伝った。
「ほら」
父はぶっきらぼうに言いながら、ハンカチを私に手渡す。
「自分だって必要なくせに」
父には似合わない可愛らしいハンカチを受け取り、私はパンダを撫でる母の隣に座った。
すると、私の気配を感じたのか、パンダは重そうな瞼を持ち上げてこちらを眺める。
そこにいるんだな、と私の姿を確認すると顎の下に置いていた前足を震わせた。
「どうしたの、パンダ。寝てていいんだよ」
無理に動かそうとして小刻みに震えるパンダに言うと、母が枯れた声で説明する。
「あなたのそばにいたいのよ。覚えてない? あなたが泣くと、パンダは泣き止むまであなたの膝に乗っていたでしょ」
そうか、と私は再び振り返る。
何か悲しいことがあっても、私が立ち直れたのはパンダがいたからだった。
パンダは自由に歩き回るのが好きな犬だ。目を離せば家中を歩き回り、楽しそうに尻尾を振っている。そんなパンダが、じっと膝の上で私が泣き止むのを待ってくれていた。
もちろん、そんな時も私の許可を得てからである。
「ごめんね、私が泣いてるから無理させちゃったんだね」
両手で自分の涙を拭いながら私が言うと、母は首を横に振った。
「違うわよ、パンダにとってはそれが幸せってこと。いつも通り、言ってあげなさいな。パンダがしたいようにね」
母にそう言われた私は即座に口を開こうとする。
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