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「それで、付き合うことになったと」
「それで、っていうか……」
さすがにそこまでは言えない。新山より変態になったようでショックだ。
ただ、口ごもることで新山には伝わったようだった。
「なるほど。じゃあ傷心会はいらないか」
「……お前は、いつから気づいてたんだ」
盛大に溜め息をついてしまう。頭を抱える。
「千聖ちゃんの方なら、最初から。近めの知り合いに似てるんだろうな、とは思ったよ。守りたい相手に似てるっぽかったし、元の髪色が近いから、妹とか姪っ子に近いのかとも思ってたけど」
そうだ、それを貴之にも言われた。『前よりムキムキになってたし、髪も染めてたから、名刺をもらうまで確証がもてなかった』と。確かに昔、貴之と会ったときには、ちょうど髪を染め直す前だった。薄い茶髪に見える地毛。
だから「弁護士さんですよね」と尋ねてきたわけだ。千聖の職業は知っていたから。
「田辺さんは、担当代わってからかな。見た目儚い系なのに、話は理路整然で。これ相当ヤバいやつだなと思ったら、千聖ちゃんを見る目が違ったからさ。ロックオンしてるんだろうなって」
ヤバいやつ。そう新山に言われるような男なのか、あいつは。……言われてみればそうか。気分で遊んでいた新山とは違う、策略家。完全にはめられた。二重の意味で……とギャグめかして思ったのに、自嘲の笑みすら湧いてこなかった。
「何かあったら流されかねないなと思ってたけど、まあ、そこは向こうが耐えてくれて助かったのかな」
契約終了後で、という意味だろうが、全然助かっていない。新山が裏で田辺自身にも『今問題を起こすと白紙になりかねないので、特に色恋沙汰には気をつけてください』と何度も釘を刺していたことなど知らない千聖としては、全然助かっていないとしか言えない。
「ま、ファイトってことで、お疲れ」
肩を叩かれ、出て行ってしまう。そういえば新山はこれから法廷だったか。出る前にわざわざ戻ってきてくれたらしい。
遠回しな元同級生の雑な慰めに泣きそうになって、それすら無性に悔しくなった千聖は、今日も溜め息をついた。
――家で待っているだろう貴之を想像しながら。
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