(元依頼人に)ひっこぬかれる

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(元依頼人に)ひっこぬかれる

 何時間抱かれているのだろう。もう声は掠れて出ない。たまに咳き込んでしまうほどカラカラだ。そのたびに貴之はキスして、唾液を注ぎ込んで喉を潤そうとしてくる。真面目に水がほしくなってきたのに、与えられるのは唾液と精液のみ。飲まなければ死んでしまいそうで、むさぼるように飲み下す。  生死の境目で与えられる水分は、味覚に変化をもたらしたらしい。はじめは嫌悪していたはずなのに、今はおいしいと感じてしまう。もっとほしいとも。変えられてしまった体を嫌がる時間も与えてもらえなかった。コブラの毒はしっかりと全身へ回ったようだ。 「ほら、千聖さんの好きなの、入れますよ」 「好きじゃ……」  ないとは、もう言い切れなかった。太く筋肉のついた脚を開かれ、むき出しの粘膜にすっかり慣れた亀頭を押し当てられる。それだけで期待してしまった。この先の快楽を。  体から作り変えると言った貴之の宣言通り、何度も抱かれ続けた千聖の体はたったひと晩で変わってしまっていた。もう前だけでは満足できない。筋線維で張った大胸筋の飾りだった乳首をしゃぶって噛んで、後ろにも大きく抜き差ししてもらわないと達することができない。太さはそこまでないがとにかく長い貴之のペニスを善く感じたのは最近の話ではない。 「ああ、でも指が先ですよね。すみません、僕ってばつい」  そんな紳士さは、もういらない。もうっていうか、はじめからジェントルマンとは言い難かったけれど。 「もう、いい……」  毎日何度も貫かれて、もう慣らす必要なんてなくなってしまった。だからこれは、貴之が千聖を試しているだけだ。わかっている。それでも、罠にかかってしまった。自分からはまるようになってしまった。  汗に濡れて伸びた亜麻色の髪は前の彼女を彷彿とさせて、だから拒めなかった。大きな瞳と笑ったときの口角の上がり方が彼女そっくりで、だから強く拒めなかった。はじめはそうだった。  けれど今は、貴之だとはっきり認識したうえで拒めない。  傷心の貴之に「筋トレ方法を教えて」と言われ、断りきれずに部屋まで来た。筋肉は物を言わないが、視覚的に守ってくれる。身をもって知っているだけに、強くなりたいという貴之を筋トレの先輩として慰めるはずだった。 (だったのに、なあ……)  なのに実際は、飲み物に催婬剤を混ぜられ、勃起がおさまらず困っていた千聖に貴之は処理を申し入れ、断ると睡眠薬を盛られ……と、意識がなかった日の真相は薬に埋もれていた。合意じゃないだろ、と言った千聖に見せられたのは、おそらく眠りに落ちる直前の映像で、なんと性行為に同意していた。どうりで記憶がないわけだ。はじめから薬で朦朧としていたのだから。立証こそ難しいパターンだが、普通に犯罪だった。弁護士相手にやるには力技すぎる。
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