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ようやく食事に応じてくれた千聖はやはり自分をクライアントとしてしか見ておらず、千聖が手洗いに立ったタイミングで貴之はドリンクに催淫剤と睡眠薬を入れた。酔わせることも考えていたのに、千聖は一切アルコールを頼まなかった。
できれば薬に頼りたくなかったと思う一方で用意はしていたのだから、これはどう思われても仕方がない。自分から離れられないくらい強烈な何かを植えつけるしかない。
もしくは、たった一回でも。一度でもこの腕に抱けるのなら本望だった。忘れようと躍起になっていた三年は、長すぎた。
筋トレを教えてくれと家に誘い、すでに半ば朦朧としていた千聖を連れ込んだ。もてなすフリをして渡した水には筋弛緩剤を混ぜていた。千聖の筋力で抵抗されれば、自分など容易にはねつけられそうだ。自分の細さは自覚している。そこまで無謀ではない。
きっと証拠にはならないだろうと思いながら動画を撮り、千聖が意識なく首を振ったのを確認してから事に及んだ。初めて触れる体は何度も夢想したスーツの下よりも引き締まって弾力に富んでいて、惚れ惚れするほど男らしかった。この体を抱くと思うだけであやうく射精してしまうところだった。
ゴムをまとわせた指で拓く。狭くて指一本すら簡単には通してくれないことを思えば、やっぱり処女なんだろうと思う。これだけたくましい人に抱かれるのも、それはそれで幸せなのだろう。でも、貴之は抱きたかった。強がりに顔をしかめる千聖を抱いて、解放してやりたかった。自分本位の独りよがりなのは百も承知で、それでも。
千聖が目を覚ましたのは三度目の挿入の最中だった。一気に力を取り戻した体。両側から圧迫してくる臀筋に搾り取られそうになる。意識ある者同士のお互いが気持ちよくなれる本物のセックスに背すじが震えた。わけもわからず、ただ力はまだ本格的に入らないらしい千聖を何度も何時間も抱き続けた。終われば警察に突き出される覚悟で、何度も。
まさか千聖がそのまま流されてくれるとは思ってもみなかった。そうなればいいな、とは思っても、真面目な弁護士相手にそれは不可能だとどこかで思っていた。
ただ、何が良かったのかは知らないが、千聖は最後にひとつ溜め息をついて貴之を許してくれた。仕事終わりに千聖の家へ寄ることも許してくれた。
「なんで俺なんだ……」
「あなたが、良かったんです」
頭を抱える千聖に貴之がかけられる言葉は、それだけだった。でも、それがすべてだった。
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